マヤ・パピヨン

(2)ゴムボート

上こそ薄いブラウスを引っ掛けていた真耶だったけれど、下は
ストリングのビキニだけで、すぐ引きちぎられて、言うほどでもなく
性急に貫かれ、一方的に、めちゃくちゃにむさぼられた。
経験のあった真耶ですら、生きた心地もなく、悲鳴を漏らすまいと
するだけでよほどの気力を費やした。しかも、その一人だけではなく、
覚えがないほどに何人もの凌辱が続いた。。

  ベラとジャッキイの泣き声のようなものを聞くでもなく
聞いていたし、真耶は自分でも不思議なほど冷静だった。ジョージの
安否が気掛かりだったが、多分殺されているのだろうとも思い、涙も
湧いてこない自分が寂しかった。今夜の内に自分も殺されるのだろうと
思い、余り苦しまない死に方を選んで欲しいともぼんやり思っていた。
意識を失わない内に凌辱の時間が終わった。思ったより私は強いのかも
しれない、と股間の鈍痛に耐えながら身を起こす力の残っている自分を
そう思った。そのあと裸のまま後ろ手に縛られて浜をしばらく歩かされた。
ベラたちも一緒だったけれど、皆顔をそむけあっていた。岩場からボートに
乗り、沖合の船に移された。ガストンのものより幾分大きい、しかし格段に
古い船だった。狭い一室に三人の女はまとめて押し込められ、外から鍵を
掛けられた。船は全速で走り始めた。どこを目指しているのか、考えても
無意味だと真耶は思い、最悪のことまで浮かんでくる不安を振り払った。

  闇のなかで三人は身を寄せあった。何の言葉も浮かんで
こなかったのは、三人ともショック状態が続いているからだろう。真耶だけが
裂けたブラウスをなお身につけていたが,二人は全裸で、なお砂まみれだった。
真耶は思いついて言った。

「ねえ、お互いに綱を解き合わない?」

後ろ手で、手探りではあったが、急いで括った気配もあり、何とか解けそうな
気が真耶にはしていた。

「どうするのよ、解いたって逃げられやしないわ。無駄なだけじゃない。
やつらが怒るわよ。恐い、恐いのよ、私。」

そんな意味のことをとぎれとぎれに言ってベラは泣きだした。ジャッキイは
ずっと無言だった。

「やめましょう、じゃあ。明日のために眠っておきましょうね。」

真耶は離れて隅に転がり、目をつむった。一人で縄を解こうとしばらく
努力したけれど、無駄だった。ベラの泣き声はなお続いていたが、いつの
間にか真耶は本当に眠っていたようだった。

  尿意が眠りを妨げ、次に真耶が目を覚ました時は明け方で、
丸い窓から光が入って部屋を明るくした。何もない部屋だった。
半開きのドアから冷たいほどの風が入ってきた。真耶ひとりだった。
皆どうしたのだろう。しかし、この狭い部屋で漏らすわけにはいかなかった。
足は自由だったし、思い切ってドアまで這うようにして行き、体で押し広げて
外を覗いた。だしぬけに、視界に全裸の女が飛び出したように見えた。
真耶の視界を横ぎって海へ落ちていった。手足が括られていたようだった。
ジャッキイだ。真耶はもう何も考えられなくなった。再び部屋の隅に戻って
震えていた。皆海へ捨てられたのだ。ベラも、そして私も捨てられるのだろう。
絶望に痺れ、長い時間そのままでいた。暑くなってきた。すぐ殺されるのかと
思うと、どんなことにも投げやりになってしまう。小水を漏らすと少しずつ
落ち着いてきた。耳を澄まし、機関の音に混じって女の声が聞こえてくるのに
気付いた。泣いているような、悲鳴のような。ではベラだろうか。彼女はまだ
生きているのだ。どこに?。キャビンか、甲板か、いずれ男がいるはずだった。
彼女のほぼ規則的な悲鳴とも合わせて、真耶は嫌な想像をした。彼女が
生きている(生かされている)としても、その理由が彼等、ろくでなしどもの
おもちゃとしての価値のためでしかないとしたら、海へ投げ込まれたほうが、
まだましかもしれない。。

  昼近く、男が覗いた。もう覆面はしていなかった。ふてぶてしい
メスチーソの顔だった。真耶は思い切って声を掛けた。

「お願い、水を飲ませて。喉が渇いて……。」

凄い表情で笑ったようだった。

「よし、飲ませてやる。こい。」

二の腕を強く掴まれて引き上げられ、部屋を出ると海風としぶきが
全身に襲い掛かり、清涼感に生き返ったようだった。すぐ隣のキャビンに
引き込まれた。むさ苦しい男たちが折り重なるように群れていた。
その中にベラが複雑な形態をとって喘いでいた。真耶はちょっとの間、
その状況が理解出来ず目を凝らして見詰め、すぐ目をそむけた。
見たことを後悔した。下卑た笑い声が沸き上がった。当然のように
全裸のままで、口と股間をそれぞれ男二人に占領されて痙攣的に
動いていた。狂っているのだろうか、と真耶は思った。男たちはその
回りにも群れて、ベラのむきだしのあらゆる部分をなで、さすったりして
いる。何人いるのだろう。ベラの運命は、しかし真耶の運命でもあった。

「喉が渇いたんだとさ、呑ませてやれ、濃いいやつをな。」

二度、三度笑いが起こって、真耶は前後から抱きしめられ、
強く身を揉んでしばらく抵抗したが、もちろん力でかなう相手では
なかった。すぐその場にひざまずかされて、前に仁王立ちになった
男の股間に顔を押しつけられる。顎を開けられ、孥脹したものを
むりやりに含ませられる。恐怖もあって一度は懸命に逃れ、転がり、
髪を掴まれて振り回される。「おい、おまえも足に重りをくくられて
カリブの海へ投げ込まれたいのか、さっきの女のようになあ。」

真耶はその言葉で痺れたように動けなくなった。まず躯にまとっていた
薄いブラウスの残片がむしり取られた。スペイン語にも自信のあった
真耶だったが、周囲から浴びせられる様々なからかいの文句の殆どが
理解出来ないまま延々と玩られ続けたのは、屈辱感も肉体に限られたことで、
むしろ幸せだったかもしれない。

 

  男たちの躯の中で真耶は二日目の夜を過ごした。
攻撃が途切れる間に少しは睡りもしたようだった。気が付くと船が
停止していた。闇の中を甲板に引き出され、下着のようなものを
投げつけられた。着ろ、という。随分長い間素裸のままだったような
気がして、服を身につけることが奇妙な感じだった。彼等が何を
考えているのか真耶には見当もつかなかったが、ともかく生き返った
ような気分で足元に落ちたものを取り上げた。星明かりと手の感触で
それが水着のブラジャーとデニムのパンツだと知る。わっと男たちの
歓声があがったのに驚き、真耶がその方を見ると、ほんの目と鼻の
先で今しも白い船が、栓を抜かれたのか舳先を浮かせ、後ろから
沈んで行くところだった。真耶は驚いた。モロー氏のクルーザーだ。
では、ずっと一緒にここまで航海をしてきたのだ。内部の金品が
物色され、略奪が今、完了したということか。そういえば、こんな女の
身の回りのものを彼等が用意しているわけはない。あの船から引き出して
きたものだ。パンツは奇跡のように真耶自身のものだった。ブラジャーは
ジャッキィのものだろうか。少し大き目だったが、それらを身につけて、
ともかく人心地がついた真耶は、あたりの様子を眺め渡す余裕も出来た。
一キロか二キロほど離れて寂しい灯火がまたたいている。陸地が近くに
迫っている様子だった。上陸をするのだろうか。ゴムボートがひとつ海へ
投げ出された。乗り移れ、と男が真耶に促す。おぼつかない足つきで
ボートに降り立った真耶へ、誰のものか小さなバッグが投げつけられる。
二本のオールも渡された。一人が身振りも交えて叫んだ

「陸は向こうだ、しっかり漕いでいくんだな。日の出までには付けるだろうよ。」

 

  殆ど立つこともできず、自分と交替する形で別の部屋へ
引きずられるようにして姿を消したベラのことも気掛かりだったが、
真耶は彼等の気が変わらない内にと遠ざかる船も見ずに死に物狂いで
オールを漕いだ。エンジンを始動させた船がうねる波の向こうへ消え、
ようやく背後に陸の気配が感じられる頃、手の皮が剥けてたまらなく
痛くなったこともあり、真耶はしばらく漕ぐ手を休めて波の翻弄に
身を任せるようにしてボートの中で寝そべった。明るみを増す群青色の
夜空で、星たちが輪郭を曖昧にさせはじめていた。絶望のなかで
あがきつづけた昨夜来の出来事が、今では激しく荒れ狂って過ぎていった
一夜の嵐の思い出のようにも感じられ、信じられない悪夢にうなされて
いたのかとも真耶は思うのだ。

  彼等がどうしてモローの船を襲ったのか、他の大抵の
男女を殺し、回復不能なまでなぶり尽くした中で、なぜ自分だけは
ボートもつけて解放してくれたのか、すべて疑問だらけだった。
単なる盗賊ではなく、モロー氏等に恨みを持つ人間がならず者を
雇って襲わせたのかもしれないとも思った。だとすれば、ジョージは
最初から攻撃の対象から外されていたとも考えられるし、自分を
解放してくれたことも分からなくもない。もちろん、まだ安心は出来ない。
目前の陸地がどんな場所なのか、安全に社会復帰できるのか、何も
確実なものは見えていないのだ。半身を起こした真耶は、またゆっくりと
オールを漕ぎ始めた。寒々とした浜が視界に見え始めた。

  わずかな数の漁船が自然の岩を利用した波止に
もやってあった。まだ明けやらぬ薄暗がりの向こうには、何軒かの
古びた家並みも見えた。どうやら町らしいものがあるらしい。ここが
どこなのか、どこかの島でなければベネズェラの国内であることは
確かだった。ともかく暗いうちに見知らぬ町をうろつくのは危険だと
思った真耶は、あたりが明け放たれるまでボートで待つことにした。
再び外洋へ流されることのないように岩の間へボートを押し込んだ。
寒さが募った。バッグを開いてバスタオルを見つけ、体に巻き、
しばらくまどろんだ。


海のきらめきで目が眩しかった。目を覚ました真耶は
あっと驚いて躯を起こした。正面の岩の上に黒い鍔つきの帽子を
被った中年の男が真耶を見詰めていた。少し後ろで若い、同じ服装の男が
にやにや笑っている。

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