マヤ・パピヨン

(19)人狩り 3

  溝の中を這い進む真耶は、隠れていたミーナを
見つけた。ミーナは真耶のいつもに変わらない姿を不思議がった。
まさか貰ったものを脱ぎ捨てたわけでもないでしょう。
真耶が簡単に説明するとひどく気の毒がり、自分の上着を着たらと
いう。真耶はその効用を言い、着ているように言った。
水だって貴重品だ。ミーナの首筋の汗を舐め、唇を湿して息をついた。

  ミーナは一緒に居たがったが、真耶には目的があった。
お互いの無事を祈り別れた真耶は先を急いだ。出来るだけ早く
沼に着いて、明るいうちに森へ入らねばならなかった。
一旦見失った車が居た。女が乗せられている。既に裸にされて
括られていた。午前中に捕捉された者には特典はない。さぞかし
残念なことだろう。前方で激しい悲鳴が聞こえた。浅い茂みに入り
込んだ「獲物」が敵に見つけられて逃げようとし、身動きが取れなく
なったのだ。強力なとげいばらの茂みで、全身をとげに食い込ませて
「ハンター」たちに追い立てられ、反狂乱になってもがいている。
着ていたものはすでにずたずたになっていた。強引に手を引っ張られ
て引き出された女はもう気絶しているようだった。既に車に乗る「ハンター」の
数は一、二を数えるだけで、他は散らばってしまったのだろうか、
身辺に気を配りながら這い進む。しかし、このあたりは身を隠す
場所がなく、余りに危険だった。海辺へ向かい、迂回をしようかと
立ち上がりかけた時、正面に男を見た。にやりと笑った賎しい
肉食の顔が真耶には憎らしげだった。真耶はくるりと身を翻して
走った。よほど走って正面に小さな沼があった。真耶はそれへ
滑り込んだ。完全に身を沈めるまでに男が岸に現れた。
もちろん気付いている。

「おい、逃げられやしないぞ。上がってこい。」

真耶はゆっくりとあおのけのまま沼の中程へ動いている。
目だけは男に注いでいる。男はずぶずぶと水に入ってきた。
腰ほどになった。真耶は足を捕まれた。腰の布は意味もなくめくれて
臍の下あたりにまつわり、恥丘や性器が剥き出しになっている。

「おい、たまらんぞ。泥だらけだけど、それでいいならすぐでも
OKよっていうんだな」
真耶を引き寄せて自分は前を開こうとしている。
真耶は抵抗しなかった。腰を掴まれ、あっけなく入られた。

「ふふ、意外に素直じゃないか。おまえは皆が狙ってた
今日一番の獲物なんだぜ。まっぱだかのきれいなけものだ。
最高じゃないか。」

すぐ激しく突き動かされ、真耶の上半身、ことに顔は腰を
男に抱えられたため逆なりに水中に沈むことが頻繁で、その都度
息苦しさと恐怖にもがき、切れ切れに呼吸を確保する。しかし男の
挿入からはのがれられない。二分ばかり、そんな女の状況を
そのままに楽しみつつ、なお欲情を高ぶらせた男がまず完頂した。
激しい最後の狂奔のあいだ、ずっと顔が水中にあった真耶はもう
動かず、溺れたか悶絶したらしいと男は思った。満足した男は抜き
離れつつ気を緩めていた。一旦は胸の上に畳まれていた真耶の脚が、
その直後に突然伸び、男の腹を激しく蹴った。不意を打たれた男は
短い悲鳴をあげて突き押され、くの字に身を屈めてあおのけに沈み、
真耶は蹴った反動で水面を滑って殆ど向こう岸についていた。
顔をあげ、思いきり息を吸った真耶は疲れた身を鞭打ち、岸へ
はね上がり、休まず走りだした。男は気絶したのか、追跡はなかった。

 肉を与えて骨を切れ。真耶は自嘲気味につぶやいた。囚人の中に
入ってからこのかた、いや、運命のクルーザーに乗って以来、
真耶は何人の男の玩具にされただろう。以前の自分だったら、
半日は立ち上がれなかったはずだ。股間の違和感も、痛みも
単なる不快な肩のふれあいほどの気分にしか感じない今の自分を
情けなくも思う。もちろん、そんな自分になり下がったからこそ
こんな地獄で生きていられたのだろう。もう、これきりにしたい。
しなければ。真耶は自分に言い聞かせた。

  見つけられずに進むにはもっとも困難な荒野の
裸地が続いていた。海に入って先回りしたハンターたちを迂回
出来ればと、真耶は海岸へ近寄った。しかし、岩の陰で談笑し
ながら歩いてきた二人のハンターをやり過ごしながら、真耶は
海に入ることを諦めた。彼等のひとりに抵抗し、傷付けたらしい今、
捕らえられればただでは済まないだろうことは明らかだった。
殺されるかもしれない。ルールではその可能性があった。もっとも、
男は一応の目的を遂げたのだし、あるいは面目もあって真耶との
ことは言い出さないかもしれないのだが。そのうちハンターの一人が
海の方に注意を向け、相棒を促す。岸辺の岩陰にひそんでいた
獲物を見つけた様子だ。真耶の死角で大きな水音がした。
獲物が逃げ路を失って海に飛び込んだのは明らかだった。
規則違反だ。しかし男たちから逃げ切ることができればとり
あえず問題はない筈だ。後からくる銃を持った看守たちが近くに
いれば、生命の危険があるが、綱しか持たないハンターたちは、
当面手をこまねいて彼女の泳ぎを眺めているより仕方がなかった。
もちろん彼女が海岸の観察者たちの目から逃れ切れるほどの泳ぐ力と、
そして人食い鮫に見つからなければの話だ。女が誰かはまだ分から
なかったけれど、彼女がハンターたちを引きつけている間に真耶も
こっそりと海に入って密林までの距離を稼ごうと思った。彼等の後方へ
這って回り込み、静かに水に入っていく。一度は犯され、熱気にほてった
躯が冷たい水の刺激で快かった。裸のままでいることで、何も脱がずに
すぐ泳げるのは都合が良い。真耶が水に入る直前に一瞥した沖合の女は、
あのプールで闘った大柄なティナ、シルバの第一の側近だった。衣服が
手足を拘束していることもあるのか、すでに疲れ切ってもう泳ぎにはならない、
悲しげに岸の方を見て捕まることも覚悟しているような様子だった。しかも、
そのはるか後方にちらと光ったのは、間違いなく鮫の背びれだ。
真耶の心臓は高鳴った。

  ティナに借りはなかった。もっとも、一度本気で闘って
勝っている。その後も話を交わしたことはないし、それが借りと
いえないこともない。相手は間違いなく自分をいい友とは思っていなかった
はずだ。同じ立場のシルバとは何度か言葉を交わし、友情に近いものも
生じていたけれど。ともかくそんなことを全て意識したわけではなかった
けれど、そのまま真耶が彼女を見捨てれば、間違いなくティナは溺れ、
あるいは鮫の餌食になるだろう。潜水して逃げる積もりだった真耶は、
意を決して一直線に女の浮かんでいる方向へ泳ぎ寄っていった。
一番速度の出る潜水泳法だった。二息で泳ぎつき、ティナのそばに
顔を出した。ティナは思った以上に疲れていた。真耶にすがりつくのを
なだめ、鮫を寄せつけないように強く水を手足で打ちながらティナを
引っ張って岸へ泳ぎ寄せた。鮫は諦めたのか近くには来なかった。
岸近くでハンター達の気配を感じたティナは、真耶の手を強く振り
ほどいた。

「嫌よ、男に売り渡すのね!」

真耶は疲れがどっと出るのを感じた。鮫に食われる方が
良かったのだろう。

「自分で泳ぎなさい。ここまでよ。」

もう岸のやつらには見られている。余程長い距離を潜り、
早く水中を移動して彼等の追跡を巻かなければならない。
あんな女のために計画がつぶれてしまうのはどうにも
やりきれないことだった。息が続かず、真耶は体をひねって
水面へ出た。なるべく全身を浮かさずに顔だけをあおのけに
水面に浮かせ、息をむさぼる。再び鮫の気配を身近かに感じ、
真耶は潜った。

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