マヤ・パピヨン
(16)懲罰の雑居牢  下


ほとんど独房監禁者に近い長期刑のつわものどもが揃っている
この雑居牢はまた、その王と呼ばれる二メートル近い巨人、麻薬界のボスと
囁かれた男を頂点とした結束の強さと、厳然とした階級が定まっている
世界でもあった。真耶は最初からこのキングの女として彼の官能を四六時中
楽しませるべく、徹底的に仕込まれた。
後ろで強く組み曲げられて首に結び付けられていた辛い鉄の枷が、
キングの側近の錠前屋の手で簡単に外されたことは、真耶がこの
地獄に押し込まれたことの数少ない幸運だったけれど、最初の「挨拶」で
剥がされた腰の布はとうとう、再び身につけることはなかった。文字通り
一糸まとわぬ姿で四六時中身辺の百人のならず者に関心を持たれ続ける
ことになった彼女にとって、それは常に心の一部を占める痛恨事だった。

 

  例えば、男たちも裸のままであれば、彼女とは対等に
近いともいえたけれど、彼等は皆こぎれいな上下の囚人服をまとっており、
そのことも真耶の孤独と無残さを格別浮き上がらせることになった。
異様なまでの彼らの関心と緊迫した危険な敵対関係が続き、真耶を疲れさせた。
猛獣の檻の中で暮らすようなものだった。
もちろん彼女は一年間の地下牢に監禁される刑の代わりにこの雑居牢に
投げ込まれたので、この牢で気楽に半年の居候を決め込むほどの立場でない
ことは確かだったけれど、キングが真耶をこの先どう扱うにせよ、それは
彼女がただひたすらこの百人の囚人達の愛玩物として、五感の全てで
婪られるということがはっきりしたということでもあった。

  当然のなりゆきとも言えたけれど、その華やかともいえる
半年前の入牢時から所長の執心、A監房での特別待遇を蹴ってB監房に
入るまでのいきさつ、そして二度の脱走から思われる彼女の誇り高さ、
高慢ぶりが、いよいよこのおぞましい酷刑で徹底的に汚され、打ち崩される
だろうという予想がこの悪魔岬の看守たち、そして少なくない女囚たちの間で
囁かれた。一ケ月経たずに真耶は以前の心身きわだった美女ではなく、
まともな人間ですらなくなって、生きていたとしても、おそらく正常な精神を
失っているだろう。毎日雑居房の前には好奇心にかられた看守たちがうろうろした。

  しかし普通の女なら耐え難い恐怖と不快、緊張の持続を
強いられて狂うしかない状況で、彼女の媚のない不機嫌な表情や
ものおじしない無作法さは当面さほど変わらず、キング等を怒らせ、
重ねて折檻を思いつかせもした。髪の毛を掴んで振り回されたり、
煙草を肩に押しつけられたりといった「尋常な」暴力が多かったけれど、
一週間たち、十日たちして、さすがに真耶が諦めとともに次第にこの男の
肌身に馴染んでいくに従って、やがて暴力は影をひそめた。

当然のように真耶はキングのセックスの対象になった。逃れるところは
なかったし、どれほど逆らったところで、真耶の力では男を拒むことは
出来なかった。実際、昼夜問わず嬲られ犯され続けた。月に一度の
経血の頃も、許されることはなく、むしろ好んで交わり、股間を血まみれにした。
このまま、二十四時間全裸のままの身を百人の男たちの前に晒して
生きねばならないことに変わりがないのなら、逆らうよりも、いっそやつらの
言いなりになってずぶとく生き抜くのもいいのではないか。
真耶は居直りの気分で時には悦びの演技もしてみせた。看守たちを含む
多くの男たちの視線の中で荒々しく犯される惨めさにも慣れ、やがて
周囲を気にすることもなく、本意気になることも珍しくなくなり、後味の悪さも
薄れていった。自分は何をしているのだろうという情けない気分はやはりあって、
もちろんすっかり我を忘れるようなことはなかったけれど。

  多分、平凡な女であれば最初から狂わないまでも、
怯えすくんで何の性的魅力も失われるはずの状況で、真耶はなお生きるための
打算もあり、やがて自然な、尋常ではない大胆さで、抱かれ、弄ばれると
自分から悦びを見出して、それを隠さなくなったし、彼等からみれば華奢な
細身ではあったけれど、疲れを知らずよく応えたので、キングもそれを
好ましいものに思い、周囲の男たちにも当然ながら欲望を燃え立てさせる
ことになったのだ。

 

  ともかくキングはそんな真耶を気にいったようだった。
彼の気が向けば真耶は昼夜の区別なく、周囲に顧慮なく抱かれ、
挿入されていたけれど、愛情のようなものはついに見せず、真耶を
心身共に一人占めしようという気はないようだった。
最初のころは何度となく男ものの衣服をねだった真耶が相手に
されなかったこともそんな気分のあらわれだったろう。不機嫌な時には
側近としていつも身近かにいる、やはり凶暴な感じの七人の男の誰彼なく
指名して、昼間からセックスすることを許す(真耶にとっては強いられる)
こともあった。真耶が、キングの目前で他の男に犯されることにどう
対応すればいいのか分からず、戸惑いながらも押さえ切れない官能の
痙攣を繰り返すのをここちよげに眺めていることが多かった。
キングの権力は一面ではそのような彼の気前の良さで維持されている
とも言えた。真耶が素裸のままにされたのも、行為を見せびらかすにせよ、
ただ性愛に終始したのも、その面から理解することが出来たかもしれない。
つまり彼等と気分的に玩具としての真耶を共有し、喜ばせること。

真耶はたいていの時間をキングのそばで添い伏していたけれど、
食事時は他の百人と一緒だったし、排泄も他の男たちと同様の場所で
じろじろ見られながらの営意だった。それが真耶のもっとも辛いことだったけれど、
側近の男たちは彼女に及ぶ周囲からの暴力や悪戯、侮辱を排除してくれたし、
王の座から最も遠い下水の穴、便所のある場所へ行くのにも常に一人が
ついてきてくれた。ほとんどの男囚たちの楽しみはそんな真耶の姿を目で
むさぼって手淫にふけるくらいのものだった。ともかく王の取り巻きたちは
四六時中の真耶のひどい緊張を多少は緩和してくれた。その七人には、
その代償としての躯の供与だったのかもしれない。

 

  この全能者の不機嫌な時に真耶をからかう口ぐせとして、
「七人の内の誰かじゃあない、血走った目でおまえを見ているここの
百人のやからみんなにおまえを投げ遣ってしまおうか!」というものがあった。
確かに、キングはひどい男ではあったけれど、彼の権力と存在がそれなりに
真耶の躯を無秩序な玩弄や輪姦から守っていることは確かだった。
キングのそばにいるかぎり、真耶は原則として彼(か、他の七人)に身を
任せるという義務を尽くすだけで済み、食餌もまともに取れ、排泄行為も
さほど辱められずに出来、少なくも彼が眠る昼間の数時間は安心して
身を休めることもできたのだった。週に一回、キングに曳かれて入る
プールでのシャワーが真耶の数少ない楽しみになった。もちろんキングの
気分次第では水の中で激しく犯されることもあったけれど、それくらいのことで
驚いたり嫌悪したりする真耶ではもうなかった。もちろん並みの女であれば
連日の濃厚な行為の連続で体力を消耗させ、緊張の持続にも耐えられず
気力も落ちて衰弱し、心身の病気になるのは必至だったけれど、真耶の
頑強な心と躯は何とか持ちこたえ、余り痩せることもなく、なお一応の健康を保っていた。

  真耶は思った。辛くはあったけれど、入る前に想像していた
百人の雄にのべつまくなしに犯されるような地獄の中で命を縮めるような
毎日を送ることなくこのまま終われば、あの懲罰牢のひと月よりも
よほどましな六ケ月だったと言えそうだ。しかし、真耶は不安だった。
この日々は最初に看守が言った期間で本当に終わるのだろうか。
いつかのストライキのように、キングが真耶を断固手放さないと公言すれば、
看守たちもこの結束の堅い監房の中に踏み込んで彼女を引き出すことは、
不可能ではないにせよ、大抵の仕事ではないはずだ。彼等もそこまでして
真耶をキングから取り上げるより、そのままにしておくだろう。
真耶がよく応えている間はキングも大事にするだろうけれど、いかに彼女が
強い肉体を持っていても、いつかは彼の度を越えた欲情に応えられなくなるときが
来ることは明らかだったし、そうでなくても、飽きられることはあるだろう。
そのときが真耶の危機だった。期日の終わりが近付くにつれて
真耶の不安は膨れ上がっていった。

  キングの要求は最後の日の十日前ころから激しくなった。
ずっと眠ることもならずむさぼられ続けた真耶の、途絶えがちな意識の中へ
キングは問いかけていた。

「おまえ、もう出られないぞ。ずっと居るんだ、ここに。いいな!」

真耶は無意識のうちに泣いていたようだった。

「嫌、私はまた脱走しなければならないの、いずれ。」

「この監房から脱走すればいい。俺が手伝ってやる。」

「嘘、貴方は私からむさぼるばかりで……、このままでは、持たないわ、からだが。」

「おまえも愉しんでいるじゃないか。俺がいるからおまえはまだここに
生きていられるんだ。出ていきたければ出ていけばよい。おまえがここで
俺の庇護から離れたらどんなことになるか、思い知ることになるぞ……。」

  真耶の反応が気に食わなかったのだろうか。それとも
いずれ避けられぬことだったのか、彼女はそのあとすぐキングの取り巻きの七人に、
続いて半端でなく犯された。始めてのことだった。それは来るべき破局を
意味していた。キングはもう彼女の躯には興味がなくなった風で、
消耗もしていたので、彼女の有り様を見ずに長い眠りに入ったようだった。
もちろん真耶も彼以上に疲れていたけれど、眠るどころではなかった。
七人はそれぞれ人種も異なっていたが、巨人といえるほどのキングに
比べれば体格では劣るものの、真耶を圧倒するだけの優れた体躯は
共通した、粘着質のものだった。キングのたがが外れた結果、
彼等は真耶を休ませることもなく次々にむさぼり、何度となく悶絶させた。
さらに明くる日の夜明けから、七人にもあきられた真耶は続いて百人の
飢えた狼共にきりもなく延々と玩ばれることになったのだ。

 

  悪夢のような時間だった。彼等の二重三重に車座になった
央で常に新手、新手の二人、三人の躯とひとつに繋がって抱かれ、
吸われ、重なり、押しつけられ、くわえさせられ、開けられ、裂かれ、
のけ反らされ折り畳まれつつあらゆる彼女の肉体の部分や器官が、
同時に様々な方向から加えられる暴力的な玩弄から一瞬たりとも
逃れることは出来ず、刺激され続け、弄ばれ、眺められ、
苦痛の痙攣やら悲鳴やら、どうしようもない不本意な反応をあからさまに
見せることで更に嘲りと嗤いを受けることにもなった。たった一人で
気丈に応じ続ける真耶にも当然限界はあった。股間は感覚もなく糜爛して
血が滴り、肛門は裂けた上になお押し込まれて、苦痛にたまらず声を
漏らして悶える真耶を周囲が哂い悦んだ。悶絶の時間が長くなり、
しかし血の気の失せた頬を激しく叩かれると見えない目を開けて
また要求に応え躯を開くのだった。看守たちも半ば面白がり、
半ばは真耶に同情をよせながらも、どうしようもないといった状況で
格子の向こうから手をこまねいて眺めているばかりだった。
この女、さすがに保ちこたえているが、もう長くはないだろう。
やつらもぼろ切れ同然になった女体を抱くほどの興味を失い、
あとは猫が鼠を食う前におもちゃにするように、形がなくなるまでいたぶられて……。
しかし、一週間に一度の監房のシャワーの時間が真耶には救いになった。
彼等のわずかなすきをついて、数知れない悶絶気絶の淵から甦った真耶は
自力で牢を転がり、這い出た。刑の期限を三日ばかり過ぎていた。


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