マヤ・パピヨン
(15)懲罰の雑居牢 上

  真耶は前のときもそうだったように、その場で
彼等脱走者捕獲チームの当然の権利のような輪姦に遭った。
二度の脱走に失敗し、心身疲れ切った上に絶望と悲嘆で
狂わしいばかりに思い乱れた女への、かさにかかった暴虐だった。
当然ながら辛い、惨めな時間ではあったけれど、重ねての経験でも
あったし、真耶はむしろ開き直ったように、泣き叫ぶことも、
錯乱めく抵抗を見せることもなく、なされるままになって耐え続けた。
あくまで健康そのものの真耶だった。
しかし暴虐と利己的そのものの行為ではあっても、陵辱は性の
いとなみそのものでもあった。許せない暴虐が時には甘美に
自身の肉の深奥にひびくこと、そしてそれに応えて否応なく動かされて
しまう真耶は自身が口惜しく、涙を流した。そんないけにえの反応は
彼らには、彼女自身でも愉しんでいるようにも見え、多くの男たちには
彼女を侮蔑したり嘲るたねにはなったけれど、反面、彼らに徹底的に
耆虐的な行動へ走ることを避け、ある程度真耶を人格を持った異性として
扱おうかと思う気分を起こさせることにもなった。もちろん男たちにも
野卑な人間は多く、ただ女を苦痛と悲嘆で狂わせることでのみ
オーガズムを感じる者に遭った分にはどうしようもなかったけれど、
彼女自身が余儀なく流した愛液の多さもあいまって、少なくも
ひどい傷を負わされることは避けられたようだった。

  灼熱の陽の下、半日近いその悲惨な時間の間にも、
真耶の意識は彼等が誰にともなく言い交わす言葉の中から印象的な
ことを聞き分け、覚えてもいた。そのひとつが、彼女と共にこの
脱走に加わった男たちのもう一人も失敗に終わったこと、そして多分、
この脱走を成功させる秘密は、この沼にしかないらしいということも
彼等の言葉から判断出来た。もちろん、沼には危険も多く、鰐や
人喰いうなぎなどが多く棲み(彼女が何時間も中にいて無事だったことで
その信憑性に疑問はあるが)森との境目には、死んだ男が言ったように
泥沢ばかりの底無し沼が広がっているということも聞いた。
真耶は何人目とも分からない男に身震いで応えつつも、もう一度、
いや、成功するまで脱走を試みてやる、と心でいい続けたのだった。
もっとも、最後まで正気なまま耐え続けたことで彼等を呆れさせた真耶は、
そのあとも歩いて収容所へ戻れたのが自分でも不思議なほど心身ともに
萎きっていた。
捕まったというクレオールと顔を合わせる機会はなかった。

 

  真耶はもうB監房には戻れないという噂が立っていた。
一週間、彼女はポンプ室のろくろに繋がれたままで過ごしていた。
夜になると彼女の脱走未遂の連帯責任として使役される同僚たちが
ろくろを回しにくる。痩せて顔つきも変わっていたし、危ういまでに
ぼろぼろに裂けて、僅かかたちの残った腰の布も、嫌がらせのように
剥かれて頭巾のように頭に被せられていた。手を封じられていたので、
彼女自身ではそれをどうしようもないのだった。
悲惨そのものだったけれど、以前からそうだったように裸を恥じらわない
彼女の美しさはなお失われてはいないのだった。両手首を背中で繋いでいた
鉄の枷は、首に回された短い鎖で連結され、惨たらしいまでに
ひねり上げられていた。同僚が問いかけても力なく笑うばかりの彼女が、
ろくろを自分で押す力は期待出来なかったけれど、少なくもついて歩く
必要はあったし、仲間に理不尽な負担を掛けているという意識からか、
自身も人並み近い力を振り絞った。昼間一人の時に、多少は眠って
力を取り戻しているのだろうと女囚たちは噂した。もっとも、彼女が一人で
いられるはずもないというのが皆の一致した結論だった。脱走の失敗と、
休む間もない使役に追いつかわれて、その辛苦の中でも真耶の魅力は
さほど失われてはいなかったし、相変わらず看守たちの格好の餌食に
されているというのだ。しかし、近いうちに再び懲罰牢に入るだろうと言われた。
今度は一年になるはずだった。一緒に逃げた白髪のクレオールがすでに
入っている地下牢だ。男ならともかく、女があの過酷な環境で一年も正気で
生きられるはずもない。だからもうB監房に戻ることはないし、再び彼女を
見ることもないだろうと皆はいう。

 

  所長はとっくに真耶を見限っていた。どれほど執着して
いたにせよ、多くの部下の公然の慰みものになっている女を、いまさら
自分のものにするほどプライドのない所長ではなかった。それで
今度は前回のように彼の部屋に呼んで、みたび説得をすることはしなかった。
ただ遠目に引かれて来る真耶を見て案外その美形が衰えていないことを知り、
看守を通じて「A監房」へ戻ることを要請したのだが、彼女は変わらず
それを拒んだということだった。
あくまで自分にさからう女。所長は面白くなかった。看守どもに身を任すことに
さほど抵抗がないらしいマヤの気分が、自分への面当てかもしれぬ、とも
思ったのだ。真耶への憎しみが募った所長は、ある報復を思いついた。
あの女を破滅させねばならぬ。「監獄の娼婦」として生きるよりも、地下の
懲罰牢に落とされる方を選ぶ女なら、そんな女がより辛さを味わうに違いない
別の処罰の方法があるだろう。そこで女が狂うとしても、自業自得というものだ。
それで真耶を、地下牢の代わりに、男囚の雑居牢に入れることにした。
刑期は半年だった。

  もう再び女囚の監房へ戻さず、ずっとそこで残る刑期を
送らせてはどうかと言うものも居たのだけれど、それは、女にとっては
死刑の執行以上に苛酷な、希望のない懲罰にはなっても、反面、
男囚にはどうだろうか、というものがあって、見送られた経緯があった。
異性の囚人ではあっても、正規の同僚としてずっと同居する場合、
それはさほどのことにはならないだろうというものもいた。
異分子として短期間そこに棲むということが、この場合軋轢を生み、
意味のあることなのだ。いや、ずっと居ることも、半年も、女にとっては
さほど変わらない破滅的な刑になるはずだとも。

  看守たちの古い記憶では、ずっと以前この刑を受けた女が、
一ケ月足らずで「過労」で死んだという。どれほど真耶が頑丈な心身を
持っていても、刑期果てて後にまともな姿で出られることはないだろう、ことに、
その心労が彼女の精神をまともなままにはおかない筈だ、と彼等は言い、
彼等自身のためにそれを残念にも思った。もう、彼女を抱く機会はないだろうと
言い、その最後の真耶を送り届ける当番だった看守たちの玩弄は執拗を極めた。
もう、どんな扱いにも驚かなかった真耶だったけれど、ことのあと、シャワーの
懇願は無視され、激しく輪姦された直後の、汚されたままの躯で男囚たちの
騒ぎの中へ入っていくのはやはり辛いことだった。しかも後ろ手に手錠で
封じられた両腕は更にむごくもひねり曲げられ、首からの鉄鎖に結ばれた。
取り上げられていた布は再び腰に回されたけれど、そんなものが何になるだろうか。
彼女に自由があるとしたら、舌を噛むこと位だったろう。

 

  以前反乱に近いストライキを起こした牢だった。
彼女と脱走を計った囚人を出した牢はその向かいにあり、それなりの
彼等への見せしめとも思われた。反乱を引き起こした監房にこのような
特別待遇を施すことは、一面理不尽ではあったけれど、最も看守たちを
てこずらせる彼等を手懐け、欲求不満のエネルギー欝積を下げる目的も
あったことは確かだろう。そのために”豚小屋に餌を投げやる”ように、
放り込まれた真耶は惨めだった。

  「六ヶ月間だ、半年。半年たったら引き上げるからな。
それまでの間、面倒をみてやれ。精々、仲良く折り合っていくんだ。
泣かせたり、怪我などさせるんじゃあないぞ。食餌も与えてやれ。」

もちろん、彼等看守たちにもこれから何が起こるのか知らない。
刑期が満たずに死体として引き上げねばならないことも多分に
あるだろうと思っている。もちろん、女がまともな心身でなくなったにせよ、
生きていさえすれば早目に引き出すことはないだろう。
彼らにとって役に立たなくなった女がなおそこで生きていられるかどうかは
疑問だったが。真耶にしても、これから六ケ月の間に、どんなひどいことが
あったにしても、看守たちが自分を救いだしてくれることなどありえないと
思っている。考えれば絶望しかない状況で、真耶は極力何も考えまいとしていた。

  どしん、と背中を強く押されて、牢内に転がり込んだ
痩せた素裸に近い女は、少なくも名前だけは、牢内の彼等にはよく知られた
噂の女だった。もっとも、皆いずれ自分も抱けるかも知れないなどとは
つゆも思ったことはなかったはずだ。大体が、牢に入って以来、
長いものは十年以上女の味を忘れている男たちばかりだったし、
牢内がざわめいたのは当然だった。そんな熱っぽい、多数の男たちの
視線の中で身を起こした真耶は、長い蓬髪の間から野獣のような赤い目を
光らせて男たちの視線をにらみ返した。両手を後ろに組み曲げられて、
首に結び付けられた鉄鎖のために、その形の良い乳房すら隠せなかった
けれど、女の凄い気力は皆に伝わったようで、すぐ面と向かってからかい
なじる者はなかった。もっとも、百人を越える尋常でない男どもの中に
このようにして押し込められた若い裸の女が、どれほどの覚悟を
決めているものか、誰にも想像もつかなかったはずだ。
男たちが、薄くて粗末ではあったけれど、皆長い袖のシャツとズボンを
穿いていたことも、なお若い女である真耶を更に際立たせて惨めな
思いにさせた。鉄格子の扉を背に、その場にうずくまったまま動かなかった、
というより、動けなかったのも当然だった。

「おい、女を連れてこい。」

奥の方から野太い声がした。真耶はすぐ反応したそばの二人の男に
肩口を掴まれ、案外素直に立ち上がった。一斉に周囲の囚人たちが動き、
声の男、この牢内でのあらゆる権力を一手に握っている王のような
人間が座っている奥の壁ぎわへ向かって、ひとすじの空間が出来た。
真耶を中にした三人がその中をゆっくり進んだ。それがいわば真耶の
お披露目だったのだろう。熱い渇望の視線が自分のあらゆる部分に
注がれていることを意識しながら、真耶は自分と一緒に逃げた、つかの間の
心の交流があった二人の男のことを思った。ここにも、そんな高潔ですら
あった人間たちがいないはずはないだろう。しかしそれは余り真耶を慰める
材料にはならなかった。大抵の場合、群衆心理は最低のレベルで行使される。
残酷な行為もしばしば増幅して暴走することが多い。真耶は最悪の場合も思って
身をふるわせた。しかし、見た目にはふてくされたままだった。
幹部らしい数人を回りにはべらせた大男が壁を背にあぐらをかいていた。
まず、邪魔だ、とばかりに真耶の腰をわずか覆っていた小さな布をそばの男に
荒荒しく解かせた。鋭い眼光で、せめてひたりと股を閉じて正面に立った
ヴィーナスのような真耶の、しかし豊かとはいえない恥毛もあらわになった、
なにひとつ隠せない身の、頭から爪先まで、その身体をくまなく眺め回した。

「ふん、二度も脱獄しようとした不逞な女か、これが。驚いたわい。
噂には聞いたが、しかも、やつら、看守どもにさんざなぶらせてやらせたままの、
汚ねえザーメンがぷんぷん臭う身体で、こんなところまでおめおめと入ってきたもんだ。
なるほど、度胸の座ったたいそうなあばずれなんだな。おい、女、名前を言え。」

真耶はぎらりと男の尊大な顔をにらんだまま、無言でいた。耐え難い屈辱が
この沈黙で少しずつでも薄まっていくような気がしていた。目前の大きな顔、小さい目、
白人には珍しい潰れた鼻が、あの仏映画のギャング俳優G・ギャバンに似ている、
と真耶は覚めた気分で思った。その醜顔が破顔した。

「面白い女だ。唖で、つんぼなのか?いや、おまえが言葉を喋れない人間だとは
聞いちゃいねえ。では、この俺様を”こけ”にしてでも、痛い目にあいたいのか、
悲鳴をあげさせてもらいたいのか。」

真耶はそこで初めて口を開いた。

「”女”で十分よ。どうせ、ここにはひとりしかいないじゃない。」

「ふん、気の利いたくちをきいたつもりか。よし、分かった。おまえが本当に
おんななのか、どうか、確かめてやろう。おい、ここに座って、股を開くんだ。」
真耶は胸を張った。
「嫌よ、まともな女はそんなことはしないわ。」
「おまえが、まともな女か!笑わせるな。いいか、ここではおれ様が王なんだ。
命令に従わなかったら、どんなことになるか、思い知らせてやる。おい!」
真耶はしばらく抗ったが屈強な男たちに左右から押さえ込まれると
どうしようもなくその場に腰を落とした。両足首を掴まれ、左右に強く引かれ、
大きく開かせられた。両肩をわし掴みされ、なかばのけぞったまま、
長い両脚を極限まで引き張られ、内腿を床にひたりと押しつけられ、
どうしようもなく剥き開かれた赤い内襞を床に擦り付け、貼り付けたまま
びん、と真一文字にされた。柔道の練習ではよくやった姿勢だったけれど、
自分からするのと、他人の力で強いられてするのとでは辛さもひとしおだった。
よく鍛えられ柔軟性もひと一倍の真耶の身体でなかったら、股関節も外れかねない、
とても耐えられない無残な形だった。蒼白になってうつろな目を剥き、歯噛みして
耐え続ける女のあらゆる部分を、王と側近の男たちは破顔して言葉でいたぶり、
やがて手指で、子供のような残酷さで、飽かず玩弄ぶのだった。

見方により、部位により真耶にもさほど自信のなくもない自分の裸体だったけれど、
もちろんそれらのひとつひとつを多くのいやらしい無頼どもの中であげつらわれ、
いじられ、けなされ笑われる屈辱は、もう心身ともにずたずたになった彼女にとっても
やはり耐え難い、辛く悲しい時間であることに変わりなかった。そんな中でも、
ひとりが脱いだシャツで、様々に強いられる惨めな姿形で凍りつく
真耶の身にこびりついた、誰のものともしれない体液の残渣やら汚物などを、
主に股間を中心に丁寧に拭い取ってくれたのは不思議な経験だった。
もっとも、それはあとから思えば、ここの王だという醜男がやがて彼女を
最初に抱き、思いを遂げるための、利己的な準備作業だったのだけれど。


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