麻薬王の贄(3)
毒虫地獄と麻薬責め

 マヤの兄は麻薬捜査官だった。コロンビアコネクションを追っていて組織に狙われ、惨殺された。顔と腹に合計十一発の銃弾を撃ち込まれた。自宅の前に荷物のように投げ捨てられた血だらけの兄の姿がマヤを非行少女の集団から引き戻し、彼女自身の真面目な方途を決めた。愛していた兄の遺思を継ぐことで、麻薬王エスカリーヨへの復讐を誓ったのだった。マヤは年齢を偽り、捜査官の道への最短距離を走った。兄の友人たちも彼女に力を貸してくれた。若い女に何が出来るのかというのがDEA当局の表向きの態度だったが、フォートフラッグの米軍施設で一年間の苛酷な訓練に耐え抜いたマヤの体力も、格闘能力もあなどれないものになっていた。殺人技と恐れられたカラテ、オーヤマカラテの免許を得、拳銃の競技でも上位につけた。そして、希望通りマヤは米軍人から地獄と恐れられているコロンビアの麻薬都市メデリンへ、身分を偽って潜入することになった。目的は麻薬組織の状況把握と、コネクション、ルートの解明だった。

 この人口百二十万の大都市は一日に平均六人の惨殺死体が上がることで、殺人首都と言われたが、それ以上に、四十五トンのコカインが毎年ここから合衆国へ密輸されているという世界最大の麻薬首都でもあった。もちろんマリファナも、メタクロアンも相当量がここで取引されている。米国から派遣された麻薬犯罪捜査官の多くがこの都市で命を落としていたし、行方知れずになっていたのだ。
マヤはこのアンデス山中の穏やかな気候に恵まれた都市の、郊外にあるナイトクラブへショーダンサーとして入り込み、すぐホステスとして採用された。他のホステスたちと同様に、マヤは客から個人的な夜の誘いを受けることになり、やがて多くの成金麻薬業者を知り、積極的に密着していった。ストリップまがいのショーダンスを見せることで高級クラブへのコネをつけることからはじめたマヤは、当然、そんなことも、女としての自分の魅力と性を武器とすることも覚悟のうちにはあったのだ。
マヤはこの道に入るときに、既に妊娠ができない身体にしていたし、性器も、肛門も可能な限りの強化と改造手術を施してもいたのだった。マヤの身体は、だから極め付けのセックスマシンでもあったのだ。若さも申し分なく、エキゾチックな美女であったマヤに魅入られない男はいなかった。
そんな彼らからベッドの寝物語で聞き出した様々な、貴重な情報を彼女は危険をおかしてFBIやDEAに流した。当然ながらそんな彼女自身に麻薬の誘惑と脅威は迫ったけれど、何とか凌ぐうちにも次々と成果はあがった。半年の間にマヤの働きで壊滅したデーラーは幾つもあったし、米ルートの摘発率は二倍になった。
彼女に危険が迫っていることを知らせてくれる仲間がいたが、その時、大物の麻薬業者ガルベスが人気ホステスのマヤに言い寄っていた。罠かもしれないとマヤは思ったが、究極の目標、麻薬王に近づくにはこれしかないと決めたマヤは、ホステスをやめ、この中年の魅力もそこそこにある麻薬デーラーの囲い者になったのだった。

 ガルベスの心を捉えたマヤは郊外の高台に大邸宅を貰い、官能に満ちた生活が始まった。彼の嫉妬深い性格にことよせて浮気もし、自分に言い寄った彼の同業者から情報も得、また、正体がばれそうになると、殺すことにもなった。彼女を疑いはじめたらしいアルバレスとモレノである。夫への貞節など彼女にとってはどうでもよかったのだけれど、麻薬関係の人間なら一人でも減るのが世のためだという気分も罪の意識をなくさせた。ベッドで間男を絞殺し、また射殺するのは簡単でもあった。もちろん人前では錯乱し、罪に震える殊勝な女を演じる彼女を見て、ガルベスは黙って穏便に処理してくれた。

 メデリンでの麻薬密輸の元締め的な位置にあったガルベスは、最近の頻繁な摘発と内部抗争(二人の男の変死も含まれていた)の責任を問われ、麻薬王エスカリーヨに呼び出された。マヤは、この御しやすい内縁の夫がようやく妻を疑いはじめ、組織からも嫌疑をかけられていることを知り、彼女を彼らに引き渡すべきかどうかの悩みを抱えているガルベスの内心を読んではいたけれど、あっさり言われるまま、彼と共に自家用ジェットヘリに乗ってキングの城へと向かったのだった。そんな疑いをとりあえずかわすという気分もあったけれど、ここまで深入りすれば、いずれもう逃げられないかも、という危機感は当然あった。兄の例もあった。兄は任務から戻った直後、米国の自宅近くで惨殺されたのだ。
ともかくマヤには逃げる機会があったし、心からマヤを愛していたらしいガルベスは、逃亡をそれとなく示唆したが、エスカリーヨに会う機会を逃せないと思った彼女は、覚悟を決めてその誘いに乗ったのだった。城に着いたマヤは、エスカリーヨにまみえるための正装に整えたあと、ガルベスのいない僅かな間に拘束された。キングの姿をカーテン越しにちらりと見た直後だった。マヤの嫌疑は彼女の思惑に反し、すでに固まっていたのだった。

 もうエスカリーヨには会えないだろう。私は恐らく、ここで衰弱して死ぬのだ。マヤは後ろ手に括られ、床に足を投げ出した格好で三日目の地下牢の孤独を噛みしめていた。男たちへの渾身のサービスが効いたのか、マヤは吊るされることから逃れ、両足首を大きく広げて固定されていることに変わりはなかったが、今は床に身を横たえることが出来、ともかく我慢できないほどの辛い姿形ではなかった。今夜はわずかな時間でも眠ることが出来るだろうか。眠りたい。拷問の苦痛と、途絶えることのない死の恐怖はマヤの神経を極度に刺激し続けて興奮させていたし、それをなだめ、ひどい疲労を少しでも癒すためにも眠らねばならなかった。いずれ、またやつらが、悪魔のような拷問者が来ることは確かなのだし、それまでにわずかでも眠っておきたかった。

 しかしマヤは眠れなかった。丸二日、何も飲まず食わずで空腹は募ったし、鼻をつままれてもわからない闇の中で、床を這いまわり、全裸のマヤの肌身を怖気させる厭らしい毒虫どもは、拷問者たちが去り、光がなくなってから急に身辺へ寄ってくるようになり、その後は減る気配もなく、傍若無人に振舞った。ここは高原都市メデリンとは異なり、赤道直下の熱帯密林のさ中なのだ。どこから這入ってくるのか、巨大なむかでや蠍のたぐいも暗闇を徘徊し、マヤの汗や体液の臭いを嗅ぎつけ、舐めに来る。彼女の滑らかな腿やらうなじに這い上がる。男の体液があふれ、臭いのきつい股間の器官にそれらがもぐりこむこともあってマヤを狂おしく惑乱させた。神経は休まらず、寝付けるどころではなく、恐怖におびえ続けた。頻繁に刺され、噛み付かれた。猛毒の痛みがマヤを苦しめ、しかし暗闇の中で身をよじり、疼き腫れた局部へアクロバットのように口を寄せて毒を吸出し、舐め癒すことの可能な部位は、彼女の柔らかい、しなやかな肢体でも限られていた。一度は恐怖の余り狂おい膝立ちし、立ち上がった。しかし足元から這い上がってくる虫は防げなかった。苦し紛れに、痛みを少しでも和らげるために小水を絞り出し、転がって全身になすりつけた。疲れ果て、毒から来る身体の痺れもあって昏倒し、また起き直り、しかし睡魔には勝てず、やがて諦めて眠り込んでしまったのだけれど、狂うまでに至らなかったのはやはり彼女の心身の驚くべき強さだったろうか。マヤの地獄は続いた。

「うへえ、これはどうだ。魂消るじゃあねえか!」
はてしなく長く感じられた暗闇での毒虫地獄の中でいつしかマヤは疲れ果て、眠り込んでいたのだった。目を射る明るいカンテラと人間どもの気配に気づいて目覚めた。剥き出しの腹の上から今、ぞろぞろとおぞましい感触を残して長さ四十センチばかりのダイオウムカデが床に這い降り、光の中から壁の方へ、闇の中へ遁れていくところだった。他にも躯の下から、豊かな蓬髪の中から、蠍やいやらしい節足虫類どもがあわてふためくように出て、離れ、去っていく。それらを見て、おびえ、信じられぬものを見たように慌て、大声で騒ぎたてる大男たち。残酷な拷問者どもも声を失うようなぞっとする状況で、全裸の女が十時間以上にわたって危険なまでの猛毒のいきものどもと肌身を接し、親しく巻き付かせて眠りこけていたという光景に驚き、瞠目したのだった。
「おい、狂っているのか、あちこち噛まれて、刺されて、ひどい腫れだ。こいつ、痛いってえもんじゃあねだろうが。」
のろのろと身を起こし、ともかく開いたままでいた股と腹部を護るような姿勢を取って男たちの中で黙り込む。なお後ろ手に括られたマヤの頑なな表情に狂った気配はなかった。その全身に至るひどい噛みあと、腫れも青白いまでに静かな美しい顔を冒すことはなかったのが奇跡とも彼らには思えた。

 しかしそんなマヤを彼らはなお許さなかった。再び天井へ吊り上げ、毒に疼き痛む無残な腫れあとをいちいちライターで炙ったり、揉んだりして更に痛めつけ、苦しめた。自身の排泄物で汚れた生贄の臭いたつ身体は抱く気にならぬとばかり、やはり噛まれて腫れあがった股間のいじらしい器官を、持ち込んだ大きな張り形で散々にして哀れなマヤを責め尽くした。マヤの不思議はそんな惨めなありさまでなお演技とも思えない忘我のみじろぎ、陶酔にも見まごうほどの四肢の狂奔と悲鳴、あえぎ、のどなりを繰り返して男どもを興がらせるのだった。
 血が滴るまで無茶苦茶になった性器と肛門を広げたまま、さすがに息があがって動きも少なくなったマヤに虚しい生気と興奮を蘇らせようと、拷問者たちはとうとう、お手のものの「悪魔の妙薬」を、とびきり強いコカインの溶液を注射器に仕込んでその犠牲の剥き出しの内腿に、隠しようのない肌身のそこかしこに少しづつ面白半分に打ちまくり、女の悲嘆と惑乱を悦んだ。

 この麻薬王国の悪のはざまで官能を武器に彼らとわたりあい、危険な離れ業を演じてきたマヤがなお麻薬になじむ機会を避けていられたのは、それ自体奇跡のようなものだったけれど、ここに至って、なぶり殺しになることが確実な彼女がまずコカイン漬けにされ、徹底的に官能を絞り尽くされることは当然の成り行きだったろう。麻薬捜査官としてのマヤには口惜しさもひとしおだったけれど、素裸の身に四肢の自由も奪われた彼女には、そのおぞましい注射針の攻撃からどう逃れようもなかったのだ。薬の力で異様な興奮状態を再現させられたマヤにふたたび三たび男どもの荒々しい性欲が襲い掛かった。わずか残されてあった最後の体力も絞り尽くされるように、何度となくむなしい絶頂感を味わわされたあと、綿のように疲れ果てたマヤは苦しげな息の中でやっとこれだけ言った。
「お願い、水を飲ませて。水がほしい。」
一旦は女を床に下ろし、男たちはマヤの望みとおり、それぞれ再びみたび猛り立ったコックをその愛らしい唇に突っ込んでたっぷりと注ぎ込んだ。小便をのどの奥に直接注ぎ込んでマヤを苦しめ、むせさせた男もいた。余程渇きに苦しんでいた彼女は、しかしそれで人心地がついたようだった。彼らも二日前の面影をとどめない、衰弱した女ひとりに食傷したようだった。
「女、身体を切り刻むのは、また、次にしてやる。しばらく同じ穴の仲間に慰めてもらえ。また趣向が変わっていいだろう、なあ。」
立つことも出来ないマヤだったが、しかも両手両足を後ろでひとつに括られ、近くの穴ぐらの、檻のひとつへ押し込められた。凄まじい臭気がマヤの鼻をついた。無情な鍵の締る音を聞いたあと、檻の外から、拷問者たちの憎憎しげな声が響いた。
「大ムカデやさそりどもと平気で同衾するおまえのことだ。そこじゃあさぞかし安らげるだろう。少なくとも五人の男がおまえの肉布団になってくれるだろうからな。」
「だが、何年も女と無縁でいたやつらだ。ちいとは手荒にされることも覚悟するんだな。」
「まあ、我慢できなくなったら、声が出なくなるまでにわしらを呼ぶんだな。もちろん、交換条件はあるが、そこから出してやらんこともねえ。」
     (4) 脱出 へ続く
当面工事中

この物語は完全なフィクションです。


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