麻薬王の贄
(2)拷問


麻薬捜査官になって最初からの希望だったコロンビアへ潜入したマヤが、ガルベスに見染められたのは、麻薬犯罪の温床である犯罪都市、メデリンでのことだった。本来彼女の国籍は米国だったけれど、それに気づかれることは南米、ことにコロンビアでは致命的だったので、スペイン語の練習にはずいぶん時間を費やした。その甲斐あって米語なまりの感じられないマヤは、東洋系の黒い瞳、黒い豊かな髪ともあいまって、拷問者たちにも異邦人とは気付かせないのだろう。もちろん、麻薬捜査官だということも。
「女はうまいものや、色男にゃあ目がないが、元来臆病で、こんな危険なことには関係したがらねえ。だがこいつは、女だということは確かだが、特別なんだな。」
「違いねえ。立派なおまんこがまくれてるし、綺麗なおっぱいもくっついてる。」
また笑いが起こった。話しの腰を折られた大男も苦笑しつつ続けた。
「キングの女たちも、気味悪がって誘っても誰もここへはよう来なんだ。そうだろう、ここは、ベタンクール(大統領)の軍隊も、M-19も、FARCも(それぞれ共産ゲリラ)近寄ることも出来ねえジャングルの中だ。奥アマゾンの、緑の地獄の真ん中で、場所すら知らねえはずなんだ。」
「だが、こいつはガルベスのヘリに乗っかって、来た。身分が割れているらしいことに気がついていたようだが。」
「ここへ潜入したやつらがどんな目にあって、娑婆へは万に一も戻れない場所だということを知らなかったはずもないだろうに、大胆なミニのドレスでキングをたらしこもうとしたのは、もう自暴自棄だったということか?」
「確かにそうだ。キングに睨まれたが最後、世界中、どこへ逃げてもいずれは殺される。」
「だが、さすがに、あの、絶倫男のガルベスが目をつけて、日に夜に玩り続けて飽きなかった女だ。何人がかかってもへこたれねえ。壊れることもねえし、たいして疲れた風でもねえんだ。この細い躯のどこにそんな精力があるんか知らんが。」
「いやァ、細くて、かっこいいモデルっ娘見たな体でよくやるぜ。ま、よく見れば肩の丸みも、腰の線も女っぽくて抱きがいのある、セクシーな体だ。おっぱいも張って、言わせねえ。いい身体だ。」
「違いねえ、こいつを、昨晩中、十人がかりで腰が抜けるまで輪姦しまわしてやりまくったんだが、目も回さず、けろりとしてやがんだ。悦んでいた気配もある。血も出なかったし、まだまだ使えるんだ。天性が淫売むきの女なんだぜ。」
横の1人がマヤの腰をなで、感に堪えないといった表情で言った。淫売むきと言われて嬉しい女はいないだろう。マヤは心中おだやかではなかったけれど、冷ややかな目でその男を睨んでやるだけにとどめた。では、昨晩私の身体を楽しみ尽くした一人なのだ。何も覚えていないけれど、ひどい夜だった。そのときの疼きが股間にはまだ残っている。彼らの体液の汚れがまだ、股間から臭い立つ。
「だから、まだ殺すと決めたわけじゃあねえんだ。」
 
「女なら、殺すよりも、もっと利用価値があるかも知らん。ことに、こいつのように若くて、美人だったらな。」
「国際売春組織が、言い値で引き取ってくれるだろう。だが、こいつは、並みのたまじゃあねえ。いくら美人でも、この根性では売れねえな。煮ても、焼いても、ちょっと、食えねえ女だ。こうまで鼻っぱしらが強えのはな。」
「だから、いたぶって、いよいよ気が変になるまで慰みつくして、半殺しにして、セックス狂いの狂い女にでもして売っぱらうって手もあらあな。」
「ま、その過程で苦しみまぎれに何もかも白状するだろうと思ったんだが、こうも強情ではな。時間がかかるし、手もかかる。」
「だが、これほど責めがいのある女は初めてだわ。ともかく時間はあらあ。じっくりと愉しもうじゃあねえかい。」
正面の男がマヤの方を見て、真面目な顔になった。
「やつは、ガルベスは、こいつのこと、怪しいと薄々感づいていたようだが、結局ここへ同伴するという間違いを犯した。」
「いや、怪しいから、逃がさず、連れてきたんだ、ってガルベスは言うかもしれん。」
「いや、ヘリのパイロットが聞いている。ガルベスはこいつに念を押したんだ。無理に来なくてもいいんだぞってな。」
「それよ!ともかく分からねえのは、こいつが、罠と薄々知りつつ自分から希望して奴の自家用ヘリに同乗し、ここへ乗り込んだことだ。逃げる時間はあったはずなんだ。どういうたくらみだ?本気でガルベスからキングに乗り換えようとしてたのか。まさか、自分でキングを殺ろうって決めてきたわけでもねえんだろうが。」
「へ、女殺し屋だってか?こいつが。何が出来る、こんな娘っこに。」
「油断は出来ん。アルバレスと、モレノがやられたのは、こいつのしわざだっていうものがいる。現にこのしぶとさ、度胸の良さだ。」
その通りだ。マヤがやった。一人は寝技で首を折った、もう一人はデリンジャーで、やった。ガルベスが穏便に始末してくれたけれど、彼は本当のことを、なにも知らない。惚れた私には盲目だった。
「こいつが身に付けていたもの一切剥ぎ取り、素っ裸にして、その窪みというくぼみ、穴という穴全部を奥の奥まで探ったが、凶器など、何もなかったんだ。しかも、さほど辛いってえ様子でもなかった。若いが、恥知らずなんだ。」
「そういう女だ。ガルベスが見識る前、こいつはメデリンの淫売窟に寝起きして、キャバレーへストリップのショウを見せていたんだ。そういう女だ。」
一場に下卑た笑いが支配した。まったくでたらめとも抗えないマヤは口惜しそうに口をゆがめた。
「なあ、おまえが娼婦も顔負けの恥じ知らずで、どんな羞恥責めにも平気らしいことは分かったぜ。だがな、おまえもその柔らかい生身をそっくり剥きだしにしている以上、怖いこと、痛いこと、情けないことも、わしらには何でも出来るんだぜ。いうんだ!。知っていることをすっかり言えば、まだそのきれいな身体のままで生かしておいてやってもいいんだ。それともまた、ぎゃあぎゃあ悲鳴を上げたいのか、いい声で啼かせてほしいのか?そら、そら---。」
男はもてあそんでいたナイフの先端をマヤの尖って上向いた右の乳房の乳暈にあてがった。マヤの顔が、全身が緊張で凍りついた。そのまま、男は彼女の表情を眺めつつ、刃先を押す手指の力をやんわりと強めていく。(うう、痛い--)しかし何人もの男に背中やら腰、尻などを抱えられたままのマヤは身じろぎもならず、恐怖の中で歯がみして耐えるしかない。
「ひひ、痛いか。その顔がそそるんだな。もっと痛がってみせろよ、声を出せ。」
やがて、わずかに切っ先が肉に食い込み、一挙に1センチばかり深く刺さりこむ。マヤの全身がぶるっと痙攣したが声は出さなかった。
「おっと、--
男は手の力を緩め、流れ出た血をそのままに刃先を収める。青白くなったマヤの顔に赤みが戻ってくる。何人もの男の手指に身体をなぶらせつつも安逸の大きな吐息をつき、弛緩と息づきを全身で見せる。つかの間のマヤの安らぎ。
「おう、けなげじゃねえか、よくも頑張ったなぁ。おまえの自慢のおっぱいが、これだけの傷で済んだんだ。強情の張りがいもあったというもんだ。だがな、これから、夜は長いんだぜ。何度も味わわせてやるぜ、ナイフの味を。どこまで正気で耐えられるか、それとも白状するか、おまえの本名や、仲間のこと、---どうだ。」
尋問を強いられつつ、同じ責めがまた少し場所を変えてなされる。マシュマロのように滑らかだったマヤの右の乳房は浅い切り傷、刺し傷でみるみる血だらけになった。しかし、マヤの口は頑なに閉ざされたままだった。ステンレス鋼の硬い刃先が肌身から離れたわずかな時間を、極限の恐怖から開放され、はあはあと喘ぎ続けるマヤの土色の顔ににじむ疲労、大きく見開いた、赤く血走った目を眺めつつ、男は酷薄な口調で言いなぶった。
「そうか、ちいとは疲れたのか、無理もねえなあ。じゃあ、少し休ませてやろうな。」
そして無造作に血だらけの乳房へ手を伸ばし、その大きな掌で鷲づかみにし、ぐいと絞りつつねじった。血がびゅっと指の間から噴いた。マヤは声にならない喉鳴りを吐き、痙攣的に手足をわななかせ、のけぞった。ついでだらしなく全身を弛緩させ、最初の失神を味わった。もちろんそのままにはされなかった。首を起こされ、激しく両頬を撃たれ、またねっとりと目を開ける。悲しい現実を、滴り落ちる胸の血と、苦悶のいきみの余りについ漏らし、なお止まらない自身の股間の失禁を、小水の奔出を見せ付けられる。皆が哄笑した。
「おいおい、情けねえ女だ、こんなことで目を回すなよ、小便も漏らすし、おまえらしくもねえ。まだまだ、これからだぜ、お楽しみは。」
苦痛と羞恥と恐怖と疲労惑乱の極限状況で、五人の悪魔の視線と手指と罵り、嘲りに撲たれなぶられて、さすがの気丈なマヤも目の前が暗くなり、思わず泣き叫びたくなる。血走った目は焦点を結ばないまま大きく見開いて、瘧のように身を震わせる。ずっと離れて眺めていたひとりが、気が気でないといった口調で言った。
「おい、こいつ、錯乱の一歩手前だぜ。腕が抜けるかもしれねえし、一旦降ろしてやれ。ともかく、もう、俺たちゃ我慢できねえ。こいつの細い腰の、鞭のような撓なりようを見てたら、むしょうにやりたくて、たまらねえんだ。」
 マヤはすぐ両腕を鉄環から外され、その場に仰臥させられた。待ちかねたように五人の大男たちの激しい交接が始まった。両の足首は繋がれたままで、開いた股をわずか寄せることも出来ない、むごたらしいとしか言えない状況だったけれど、冷たい地下室の石床にじかに押し付けられつつも、マヤはよく反応し、次第に狂おうほどに男に抱きついて動き、声もあげた。憎むべき拷問者どもへの、女の異様なまでの破廉恥な馴染みよう、悦びように、疲れ果てても、凶器が変われば恥もなくこんな雌猫になることよと男たちは呆れ、あざけり笑いつつも、上機嫌だった。もちろんそれは当面のたまらない恐怖と苦痛から束の間開放されたマヤの(ファックばかりは、彼らの凶器に身内を貫かれるとはいえ、苦痛も、出血も、彼らの胸板で揉みつぶされる乳房の傷を別にして、さほど心配するほどの負担ではなかった)本心というよりも、なんとか彼らの関心を逸らして死を逃れたいマヤの、衰えた躯に残されたわずかな気力を振り絞った、渾身の演技だったのだ。
        (3)へ続く 当面工事中  

この物語は完全なフィクションです。



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