まんだら(下)




秋葉原は相変わらず人通りが多かった。R電機はキャンペーン嬢を雇う割りにはさほどのこともない、

やはりいまどきのコンピューターソフト、CD、DVD、特にアダルト関係が充実していることを窺わせる、

一間間口の、見かけは小さな店だった。もっとも、奥は深く、別の通りにつながっていて、

高架駅に近いこともあり、店員も、客も多いまことに活気がある店だった。

店長の行きつけらしい近くのラーメン店で中華飯を戴いたより子は、

店長に従って店の二階売り場に上がり、ロッカーもトイレもないことを言われ、躊躇なく

客や店員の見るなかレジの隅で立ったまま手際よく着替えをした。

この程度のことには、より子も既に躊躇しない厚顔さを身につけている。

スカートの中からパンティをずり落とし、下だけ水着に替えて、あっというまにワンピースを脱ぎ、

剥き出しの乳房に悠々トップをあてる。堅くて上向きの綺麗な乳房が自慢のより子は、普段から

ブラジャーは
つけていない。携帯電話をメタリックのベルトで右の股下近い太腿に巻く。なにかSF映画に見る

ハイテクの武器めいて、凛々しくてエロチックな女戦士の趣きだ。三角巾のパレオは怖れていたように

しるしだけのような小さい布で、殆どむき出しのバックすらしっかり隠すまでにはいかなかったけれど、

バック主体に低く前で括るとそれなりの気休め程度にはなった。

最後にローヒールを持参した金ラメのハイヒールに履きかえ、脱いだ衣服などを押し込めた紙袋を直近の

店員に託して階下へ降りた。ひと通りの多い方の街頭へ出て、笑顔で用意されたパンフレットを誰かれなく配る。

たちまち手持ちの一括りがなくなってしまう。店頭近くで彼女の後ろ姿を楽しんでいたらしい店長は、じろじろと

パレオを不満げに眺めながら追加のパンフをより子に手渡し,

見境いなく誰にでもやるものじゃあない。もったいない。と小声で小言を言った。

それからは手を出すものだけに渡すことにした。

自分から動かなくなると誰もが近付かず、遠巻きにして見るだけになった。しかし人だかりが更に人を呼んで、

車も寄って駐車し、窓を降ろしてく気配で、渋滞するほどになった。若い警官が二人来て、

より子をじろじろ見ながら歩道の交通整理にかかる。大体、167センチのより子が高めのヒールをはくと、

175,6にはなる。そんな大柄の「殆どヌードな」水着美女に一人で思いきりよく近付く男は概して負けず背が高く、

元気もある少数派なのだ。もっとも、一人がより子に近寄ってパンフを要求すると、続いてひっきりなく、

より子はまた忙しくなる。

まぶしげに目をそらす若者がいる一方で、じろじろ遠慮もなく眺め、握手を要求する者もいて、

”かっこういいなァ、姐ちゃん”

などと一見こわもてに言われるのは悪い気分ではなかった。もちろん、目をひそめ、横目でにらんで通り過ぎる同性も多く、

無視するけれど、良い気分ではない。

”はだかだよ、誰だろう、凄いなあ、だから新人の売り込みだよ、

何でもするんだ、鉄面皮なんだ、見えそうだナ、みえてる、”

何が?より子が聞くでもなく聞いたのはそのくらいのものだけれど、まだまだ、聞くに耐えない言葉が

囁かれていただろうことは、想像が出来た。握手だけでなく身体を、特にこぼれそうな乳房に触りかける

図々しい男たちも少なくなかったし、後ろから、触らないでくださいね、生ものですから、と言ってくれた

ガードマン気取りの店長を目で差して、あれの愛人なんだろ、と言うものもいて、さすがにより子の笑顔も歪んだ。

まさか、そうなんですともいえない。使い捨てカメラでフラッシュを炊くものもいたが、近接して撮る分には、

ポートレートなどはともかく、全身のショットや、彼等のお目当てらしい腰、パレオが開いている前からの股間、

剥き出しの脚などをうまく収めるのはなかなかに難事だろうとより子は思った。

 一時間が経って、休憩時間、ずっと近くに添ってくれていた店長が、隣りの喫茶店へ誘ってくれた。

こんな場合、マネージャーならちょっと上からハーフコートなどを掛けてくれるものだけど、とより子は不満も

あったけれど、ともかく気遣いの出来る男ではない。

ショーの会場から移動した時に履いていたローヒールの時と違って、ハイヒールのより子は、並んで歩くと

むしろ小柄な店長との身長差が目だった。それでより子は喫茶店へ入っていく男の禿げあがった

頭頂の貧しい様子をしっかりと確認出来た。

要するに、と一人でゆっくりリラックスしたかったより子は思った。

この数時間は、私はこの男に金で買われた奴隷なんだ。でも卑屈になる理由はない。

水着のままではあっても、通りに面したボックスに腰を落ち着け、全方位からの夥しい視線からわずかに逃れ、

とりあえずより子は人心地ついた。もっとも股間の強い締め付けは座ると更に苦痛を増す。

サイドの紐を緩めることも出来ず我慢する。

たちまち店内は新しい客が増え、周囲の視線が気になり出した。組んだ素足を崩すことが出来なくなった。

 熱い紅茶が美味しかった。店長は、駄目なんだろうけど、といいながらショートケーキを取ってくれた。

より子はダイエットをしなくても太らない体質だった。

「恥ずかしくないかい、こんな仕事。」

良く言うわ、彼自身でこのひどい最小の水着を押しつけたくせに、

とより子は苦笑した。もっとも、自分で選んで持ってきたビキニも、素人から見れば大同小異で、

誰かに「ハダカ」と言われるだろうことは確かだ。馴れに気をつけねば。

「こんな格好の仕事ばかりじゃあないんですよ。」

とか弁解しつつ、ま、肌を晒す仕事が多いことは確かだ、と思う。

「半年続けて、ようやく慣れました。歳もあるし。わたし、もう五になるんですよ。」

より子は正直だった。同僚には未成年のモデルも多いし、やはり勝負になると若い方が有利だ。

「じゃあ、結婚してるんかな、あんた、見かけによらず。若いよ。」

否定も肯定もしなかった。見かけによらず、というのが、どんな意味なのか、より子は気になったけれど

尋くのをやめた。男の口臭が気になったし、早く切り上げたかった。相手に、今後も続くだろう重要なクライアントに

不快な思いは与えたくなかった。しかしそれをいいことに、どんどん図々しく譲歩を強いてくる好色な顧客は多いのだ。

この男もそんな典型だった。携帯の番号とか、個人的な情報をしきりに尋いてくる。太腿に巻いた携帯を取って、教えた。

もっとも、これはいろんな事情でしょっちゅう買い替えている。

 アダルトビデオの関連でその世界に顔が利くことを得意そうに吹聴し、紹介してやろうという。

どんな仕事を持ってくる積もりなんだろう。インターネットの個人ホームページを格安で作る者

会わせてやろうという。二十五だってまだまだ若い。あんたは可愛い顔だし、躯も抜群にきれいんだから、

すぐスタァになれるよ、これを機会にうちの専属にしてあげる。より子は嬉しそうな顔を崩さず、まだ新米で、

全部事務所を通して戴かないと叱責されるからってあいまいな

態度に終始した。夕食を一緒にしよう。空いているんだろう?からだ。事務所に確かめてあるんだ。

恐れていた台詞だった。より子は、至極低姿勢で、絶対外せない私用があるんです、済みません、と謝ったが、

男は大層未練っぽかった。

「『私用』なんだろう?断れないの?その用事、何なんだ、今日に限って、変だな。詳しく聞かせてよ、それ。」

より子は、面倒なことになった、と心が騒いだが、緒方との約束は、きっかけはともかく、「仕事」だ、と言われたことであり、

もう二ケ月も間遠になっている彼に会いたいことでもあり、とても自分からキャンセルは出来なかった。

極力誠実に見えるように、目を相手に据えて、より子は、離婚したあと、大層経済面で世話になったひと(写真家とは言わなかった)

に紹ばれていて、今後の仕事の打合せもあり、どうしても穴をあけることが出来ないと詫びた。

”離婚”という言葉は男には刺激的らしかったが、なお食い下がる。

「うまいな、どうでも言えることだ。ここから、そのひとに電話してよ、

わしから詫びを入れる。それでいいな。」

緒方を個人的に呼び出したことは余りなかった。ほとんど彼からの

一方的な電話だった。もちろんメイルは送るけれど、これも手応えのないものだった。

この時間、連絡がつくかどうか、不安だったけれど、ともかくより子は彼の事務所に連絡し、待った。

案外、すぐかかってきた。

「ごめんなさい、今、秋葉原でお仕事なんだけど、貴方との夕刻からのお約束、どうでも次の機会に回してほしいって、

今入っているクライアントの店長さんが…… 。ご自分で直接お話したいっておっしゃるの。」

緒方が何か言い掛けたのを無視して、じりじりしている様子の店長に電話を渡した。

緒方の言う仕事がどんな内容のものか、

より子にも分からないけれど、彼の性格上、店長の要請を呑むことはないだろうと彼女は期待半分で思った。

店長が勝った時は、それまでだ。緒方の心が私から離れているということだろう。

店長は相手の短い自己紹介で電話の主の正体に気付いたようだった。あっさりと素直に納得し、電話を切った。

有名人に対する市井の人間の典型的な態度だろう。より子には、男の態度はがらりとよそよそしくなった。

「緒方さんは、知ってるよ。たいした写真家だ。

なあ、あんた、何度ほど関係したの?彼と。」

そんなことではありません、と懸命に否定する自分が空しかった。この世間を知り尽くした男は、おそらく、

より子よりも正確に彼等二人のことを把握したのに違いなかった。店長は、より子が携帯を戻す仕草を、

俯くことで全く役をなさなくなったブラからはみでた豊かな乳房のふくらみをじっとりとした目で見ていたが、

やがてテーブルの伝票をわし掴みにして、そそくさと立ち上がった。

「さあ、休み過ぎた。五時まではきっちり勤めておくれ。トイレも、忘れずに行ってな。」

 カフェ内のトイレ前に数人が列を作っていた。気後れもあって並ぶのを諦め、そのまま持ち場に戻ったより子は

休んだ気にならず、そのあとが随分長く感じられた。

 

天気は相変わらずはっきりせず、風さえ吹くようになって、寒さには強い彼女も何か、ショールのようなものを身体に

巻きたいと思ったほどだった。通行人はむしろ多くなったけれど、パンフを催促する者は少なく、しばらく

手持ちぶたさに立ったまま眺められっぱなしの時間が続いた。笑い掛ける対象が身近かにいないまま

笑みを継続するのはなかなか辛いことでもあった。むしろ、店長より下がった相手でも、

もっといろんな熱い交流があった方が気が紛れて楽かもしれない。

 一時間を過ぎると尿意が兆してきた。

店内にトイレはなかったはずだ。店長にくぎを刺された手前、店員に訊くことも出来ず我慢し通すしかないと思った。

より子は生来き真面目な性格だった。

すぐ後ろの店内に陣取っていた店長は、休憩後はいなかったし、ずっと煩くも感じていたより子は

相談する相手が居なくなったことで心細くもなる自分に身勝手さを感じ苦笑した。

カメラ小僧は間をあけて来、数え切れないほど撮られた。二人ひと組になって前後からポーズを要求したり、

パレオを外してというあつかましい男も居た。いつの間に居たのか、後ろから股間をアップで撮られたりした。

親しげに自分の最新のデジタルカメラを見せ、撮った彼女の前後の股間のショットの数々を

液晶の大きな焦点窓に再生して見せた。より子の生来下つきの器官は正面からは目立たず、当然キャメル・トウは

殆ど現れない。隆めの恥丘の半ばを覆えないこの低い位置の極小ボトムでも、薄いわずかな範囲の恥毛がはみ出ることはなかった。

正面からは隙のない彼女の端正なビキニ姿だ。前を隠せないパレオがそれを強調する。

男はバックの画面を出して見せた。より子に感想を言わせようとする。キャリヤーの短いより子も素人ではない。

当惑しつつもそれなりに対応する。

「お尻のかたち、可愛いでしょう。自信があるのよ。」

面白そうに口をゆがめて嗤う中年のスーツ姿の男は玄人の趣があった。

自信があるって、それはそうだろうさ。だからこんな仕事してんだろ。」

男は更に見せたいショットを繰り出して女の反応を眺めている。

腰をひねったときにパレオがめくれた瞬間があったのだ。何も身に着けないに等しいバックの器官が目立つショットだ。

どんなヘア写真集にも載せられないような、細い紐の食い込みでむしろ強調された彼女の双の陰唇が

薄暗い画面のせいもあって赤褐色の肉襞として淫靡に映っている。無言のまま見入りつつ、

毛をしっかり剃っていたのがせめてもの救いだとより子は思った。

「へへ気なんだな、街なかでこんな丸出しの景色晒して。あんた、

たいしたたまだよ、きれいな顔してさ。」

「ふーん、見ようによっては見れるのね。猥褻物?でもおまわりさんも、私を見てたけど、何も言わなかったのよ。」

何でもないわ、別にグロというほどでもないし、あなたがたのよりね、と屈託のない微笑のままより子は応じた。

男は声を呑んで破顔した。面白そうにじっとより子の顔を見詰めていたが、

何か思いついたように言った。

「分かった、あんた、ネットの”覗き部屋”に毎晩出てくる女だろう。どこかで見たと思ったんだ。」

ちょっと衝撃だったけれど、より子はしらばっくれた。なあに、それ。知らないわ、そんなこと。

すぐそばからパンフを要請する別の男が二人をどすの利いた声で叱った。”おい、いつまでいちゃいちゃしてんだ。早く退け”。

 そのあとパンフ要求の客が続いて、五時の約束の時間が過ぎたけれど、しばらくは抜けられそうになかった。

より子は尿意が極限に近く、一人の握手を終えたあと、どうにもたまらず、ごめんなさいね、時間なのよ、ときびすを返そうとした。

次の相手が悪かった。

「おい、なめんじゃあないぜ。」

細い二の腕を掴まれて、反射的により子は元の場所へ立ち戻った。

より子とは目線が同じ高さだ。大柄な、肩幅もある黒背広の中年男の、

凄いほどの目が女を怯えさせた。

「あ、ごめんなさい、本当に。これで終わりにして。お願い。」

パンフを何枚かまとめて手渡したけれど、男はそれを受け取らなかった。こじれてしまった。

じっと正面でまぶしげに男の視線に耐えているより子の腕を、なお男は離さないまま、見詰めている。

「いや、許さんぞ。おまえ、これから付き合うか?なら許してやるが。」

これは直接的な脅迫だった。初めてのことでより子は慌てた。はい、と言えば、こんな男だ、もう逃げられないだろう。

「それは、出来ません。スケジュールが、詰まって……。」

とりあえずトイレへ走り込みたいのだけれど、と言おうとして、そばで自分の顔を見詰めていた

仲間の男が急に得意満面といった表情に変わったのに気が付かなかった。

「おまえ、覗き部屋の女だよな。こんな格好で、やっぱ、露出狂なんだ。ちょうど良かった。いつもやってること、

ここでやってみろよ。できるんだろ、なぁ。」

より子には、それが何なのか分かっていたけれど、一応不審な顔をした。

「分からねえのかよ、”オナニー”だよ。せんずり!。かけよ。なら離してやる。さあ!」

より子は困惑のきわみにいる。仲間は二人、強い力で腕を捉まれ、囲まれた。遠巻きに囲む群衆は静まり返っている。

店の方は人垣で見えない。どうして、ここを切り抜けようか。

「許してェ、もう、我慢出来ないのよ。トイレ……。」

とうとう言ってしまった。ゆさゆさと脚を震わせるのも、なりふり構っていられない程なのだ。男はにやりと笑った。

「何だ、ションベンか。それはおまえの勝手だ。こんな寒空で、裸を晒してるのが悪いんだぜ。」

そして、すぐ酷薄な、何か面白いことを思い付いたような笑みを見せた。

「いいだろう、我慢出来ないのなら、ここでやってしまえよ。それで勘弁してやる。おまえも、

それですっきりするだろうし。」

泣き出せば許してくれるだろうか。それもより子は情け無いような気がしたし、切羽詰まったより子は妥協した。

周囲に人垣が出来ていたが、ここだけで恥をかけばいいんだ、とそれで度胸が座った。しかし、

それ以上前後を考える余裕はなかったのだろう。クライアントの店の前を汚すより、車道に近い下水溝へまで

移動することも出来たはずだけれど、そこまで思い及ばなかった。

が頭と肩を押さえるのに逆らわずその場にしゃがみ込み、パレオを上へ引き上げて

パンティの片方の紐を緩め、最小限ずらして勢い良く放った。ぶるっと身が震えたのを指摘して

周囲の何人かが失笑した。しかし極力早く済ませてここを立ち去りたい一心だったより子は、もう無心だった。

長い放尿が終わった。

手で拭う。男がハンカチを差し出した。

「やっちまったんだな、本当に。たいしたもんだ。褒美だ、やるよ、拭いていいんだ。どこもかしこも、

跳ねて濡れちまってるじゃあないか。」

頭の中が真っ白になっているより子には何も感慨はなかった。これも自分の完全な失態なのだろうと思った。

言われるままに股間を拭い、それからゆっくりと立ち上がってから気がついた、ずれたままの水着を整えて結び、

パレオを引き降ろしてゆっくりとした身のこなしで揺れる観客の間を擦り抜け、店内へ入っていった。

ざま、見ろい、

と男の声が背中を押したのを聞き、耳を塞ぎたい気分だった。

店の客はまばらだった。店頭に立っていた数人の店員がちらとより子を眺め、それからゆっくり持ち場へ戻り掛けていた。

 

 新宿の緒方のスタジオに着いたより子は、さすがに疲れていた。サロンのソファにぐったりと横たわるより子を見て、

一日に三つも仕事をこなすモデルなんて、よっぽど売れっ子なのね、と受付けの、彼女もなじみの

安田和代という中年の女は笑った。緒方は不在だった。しかし、打合せは出来ます、と言う。そう、もちろん、

仕事のために来たのだ。忘れていたわけではない。自分に言い聞かせた。だから、約束の午後六時には少し遅れていたけれど、

出来るだけの努力はしたのだった。時間の面で、多少ルーズな緒方は、しかし他人の遅れに関しては厳しかった。

しかし、より子の十五分の遅れで怒って出ていったわけでもないらしい。緒方と夕食を共にする、多分夜も一緒だろう

という期待で、この辛い一日を乗り切ったのだ。一週間前の経緯もあり、仕事は二の次という意識がより子になかった

といえば嘘になる。

「じゃあ、すぐ仕事なんですね。」

多少不満めいた口調になったけれど、緒方側のスタッフにしてみれば、何をこのモデル嬢はいっているんだろう、

と不審に思ったかもしれない。ヘッドとより子との関係を知っている和代は、むしろ可笑笑)

かったもしれないのだ。より子はまだそれに気付かなかった。全てが、この事務所全部が緒方の肉体そのものであるような錯覚をしていた。

それも、この一日の辛い出来事が関係していたのかもしれないけれど、少なくも緒方には慰めて欲しかったと、

より子はそんな気分でここへたどりついたのだ。でも肝心の緒方はいなかった。

「ねえ、シャワー、使わせてもらえないかしら。」

路上で小便をした。しかもその場所がクライアントの店の前で、そのことでしたたか顧客主である店長から叱られ、

大きな借りを作ってしまった。いずれ、一席設けねばならないか、それとも事務所を辞めるか、決断せねばならない。

そんな心労の重なりが、かなりの距離を半日で移動し、急いでき続けた疲れ、汗などが身体に

こびりついて、このまま仕事に入る気にはならない。せめてシャワーを浴びて気分を変えたい。

軽く承知してくれると思っていた相手は、ちょっと態度を変えた。もっとも、ここへ遅れて着いたより子を見た

当初からそういう気分だったので、うかつにも彼女の方が気付かなかったということだったのかもしれないが。

「それは、いいけれど……。大体、貴方が疲れているのは分かるけれど、ともかくうちには、うちの仕事のスケジュールが

あるだけなんだから、いつそれがあろうと、深夜から始まろうと、スタッフは、モデルさんも含めて皆それに合わせて、きちんと

体調を整えて入ってくれるのよ。ヘッドも、緒方もそれは同じ思いだと思うけれど。」

より子は少し恥じ、どんな仕事か聞いていないので、時間が詰まってたし気分も含めて、何も用意はしてこなかった、

と正直にいった。

「そうなの。いいのよ、別に貴方の方は何もいらないわ。ヘア・メイクもスタジオには居るし、

ともかくスタジオに入ってよ。でも今夜だけでは、多分、終わらないでしょうね。」

明日も続く仕事なの?。事務所通せば良かった。」

ヘッドが遊び半分で呼び寄せたという種類の仕事ではないほど、これは重いものらしい。

明日のスケジュールを聞いておかなければ、とより子は携帯をバッグから出した。

 意外にも、緒方事務所からは要請が来ており、より子自身は承知しているとかで、連絡はしなかったという。

売れっ子なら勝手なこういった仕事取りは厳罰だけれど、より子は今日のような日がむしろ珍しかったし、

ポイズンも大物の緒方には格別なのだ。

ともかくより子の方が驚いたのはそれが日間ぶっとおしの仕事になっていたことだった

まさか、寝る間もないほどではないだろうけれど。何なの、それ?と聞いても、そちらで聞いておくれ、とそっけない。

それより、R電機では”粗相”をしたんだって?と詰問調だ。なんだ、やっぱり事務所へもいいつけてたのか、

とより子はげんなりしたけれど、ともかく謝り、いずれそちらには報告に伺う積もりでした。と、こちらの

質問がぼやけてしまった。とりあえず秋葉原のことは自分で刈り取った積もりだった。店長には明日の夕食を約束させられて

しまっている。もちろんそれだけだ。しかし、現実に戻って、この仕事が日間の缶詰めでは、この店長との

約束も危ういのだ。これはむしろ幸いかもしれないけれど。しかし、こんな仕事は、旅行が

絡むものを除けば、より子にはなかったことだ。

「何もご存じなかったのね。ヘッドも罪作りだこと。」

「じゃあ、安田さんは知っているのね。教えて。」

「ここじゃあ、言えないわ。すぐ評判になるし、でも、もう断れないわよ、より子さん。貴女を見込んでヘッドが声を

掛けたんだから、ね。ともかく、スタジオに入って、スタッフみんなと気を合わせてほしいの。」

 

 勘のいいより子もまだこの間の事情が呑み込めていなかった。不安があった。

しかし、要は写真撮影のモデルになってほしいということだ。それ以外ではないだろう。緒方の撮影は

今度で三度目になるけれど、それ自体より子には鮮烈な経験だった。最初から手加減のないヌードで、

その常識を超える大胆なきついポーズを強いる気迫は恐いほどだった。夫啓一のそれはある程度、

というより、多分になりゆき任せで、より子にも大幅な自由を許していたのだけれど、緒方は

自分のイメージのポーズへ収斂させるために、モデルには執拗にやりなおさせ、試させた。

「綺麗すぎるんだなあ。」

それが緒方の終わっての感想だった。もちろん何のタブーもない、遠慮もない股間のショットも多かった。

そんな撮影が時をおかず二度あった。数ケ月後に写真雑誌に載った数枚は、それでも撮影時のことを知っているもの

にとっては意外なほどおとなしい作品だったのだけれど、啓一は当然のようにその掲載を知っていて、

自分にはないものをそこに感じ取っていたのだろう。やはり、プロは違うんだなあ、と口惜しそうに言ったものだった。

二度目の撮影の後、スタッフを帰して別室で緒方に抱かれたことを、より子はとても夫にいう勇気はなかった。

余りに疲れていたし、しかし気分は高揚していて、裸のままでぼんやりしていたのだ。

緒方に責任を全部被せるのも酷かもしれなかった。

 

 次の撮影は夫とも別れ、暫く間が開いて緒方が外遊から帰ったあと、より子が「無断で」モデル事務所と

契約したことで、ちょっと機嫌が悪いまま行われた。何が目的だったのか、今でもより子には分からない。初冬の

九十九里浜でそれは撮られた。広い波打ち際を全力で走ったり、砂にまみれて転がったり、高い波に打たれたり、

浮かんだり沈められたりして、より子は溺れそうになった。凍えて激しく震え、海岸で炊かれた焚火がありがたかった。

終始より子は全裸のままで、困難な命令と指示でおろおろし続け、緒方のカメラに泣くひまも与えず追い回された。

よほど途中で投げ出して帰ろうかと思った。その日はより子の休みの日でもあったのだ。そんな苦労して

撮ったものも、結局発表はされなかった。もちろん、精力的に仕事をこなす緒方には、さほど珍しいことではないようだったし、

その夜も疲労の激しいより子に同情したのか、抱いてくれた緒方に不満などはなかった。

 

 仕事に関するかぎり、そんな辛い思いをしながら、再びの撮影が自分から望んだかたちになったのは奇妙だと

より子はふと思った。もちろんそんな辛いことは忘れていたのだろう。その前後の、緒方との逢う瀬しか頭になかったのだ。

そして、今夜はその撮影だった。もっとも、辛くはあっても、緒方の顔と声が聞ける場所に居られるというだけでも、

より子は幸せを感じられる女だった。まだ戻っていないらしいけれど、その雰囲気を味わえるだけでもいい。

 かなり広い、十六畳相当という板張りのスタジオに一歩入ったより子は、その異様な雰囲気に圧倒された。いつかの

がらんとした印象の部屋ではなく、幾つもの大道具が運び込まれている。もっとも目についたのがどこか、

洋画のコスチュームプレイで見た、飾り屋根のある豪華なダブルベッドだった。真っ白いマットが別の場所に延べてある。

和風家屋から運んだような障子戸、金箔の錦絵がくねる襖一対。二間四方はありそうなペルシャ絨毯が

広げてあった。それらの間で、なにやら様々なグラビア雑誌、高価な絵画や写真の専門書籍などを周囲にちらかし、

繰る男たち、顔に見覚えのある緒方の助手を別にして三人いたが、皆日本人ではなかった。皆大きく、ラフなジーンパンツ姿に

逞しい半裸を晒して、より子は覚えず動悸が高まったが、すぐ顔をそむけた。何か判じものを試されているような、と思った。

後から入ってきた和代女史へ振り向いた。

「何なのよ、これ。」

女は意味ありげに笑った。

「分からないの?貴女に。顔が赤いわ。」

そして、部屋の男たちに英語で何かを告げた。和代は海外経験があり、英語は堪能なのだ。

初めて彼等はより子の存在に気付いたようだった。起き上がり、笑みを浮かべ、強い興味と親しみの笑みを浮かべて

握手を求めてくる。一人は北欧系らしい灰色の瞳を持った白人で、もうひとりは褐色の肌をしたアラブ系のひげ面だった。

べたべたした感じの、初対面の女にする洋風の挨拶、頬にキスをしかけてくる。そして

最後の大男は、くすんだような漆黒の肌を誇らしげにあらわにしたれた短髪のアフリカンだった。

その黒人が大きな右の手で握手を求めながら和代に早口で言う。最もまともな挨拶だった。

すぐ笑いながらより子に通訳してくれた。

「あなたのような、愛らしい、綺麗なひととお相手出来るのは、幸せですって。貴女、より子さんに言ったのよ。」

その男の自分を見つめる賛美の視線にあてられ、より子は返事も返せず、ちょっと混乱していた。

「ねえ、もっとくわしく説明して。緒方さんは私を使って何をしようとしているの。この男たちはなにもの?」

三人の男は明らかに場違いなより子の態度でしらけたようだった。

和代は、いきりたつより子に、近くの床に散乱しているパンフレットのような紙片の一枚を拾って渡した。

それは、一見してより子には、江戸時代のいわゆる浮世絵と思える、古風な極彩色の版画だろうと見当がついたが、

その複雑な模様めいた絵柄が実は二人の人間が手足を絡み合わせた姿の多少誇張した表現であることに、

ゆっくり気付いていった。二人とも綺麗な紋様のある着物を半ばはおり、なかば脱ぎかかっているために、

更にその認識が難しくなっていることは確かだった。

その絵の下に、解説のようなものがある。それは現代の言葉で、凝ったフォントではあったが、

読めないことはなかった。こんなことが書かれてあった。

 四十、狂い獅子。対向体位である。おなごは

あしを開き、うしろに両手をついて尻を据える。おとこも同様に

相対し、お互いに、にじりよる。おとこは両の股でおなごの

太腿を挟み込み、ゆるりと入れる。抜け易い体位なので、

激しい前後運動は避け、ゆっくりとしたひねり動作でじらす

ように刺激させるのがよい…。

じっとそれに見入っていたより子の後ろから、聞き覚えのある男の声が背中を襲った。

「そう、それもいい。だが、最初からやる体位じゃあない。」

緒方だった。後ろ手にそれを隠して、向き直ったより子の視線には取り合わず、その絵を奪い取り、

絵を示しながら更に続けた。

「これは、女も相当なやる気がなくては成り立たないわけで、男が自分のいちもつを女の前で誇示しながら

迫っていくのを、やはり対等の気分で受け入れるわけだから、既に雰囲気は絶頂に近い時間だろう。

狂い獅子という名の通り、セックスに狂った男女のさなかの所業だ。いくらおまえでも、最初からは、な。」

「ね、緒方さん、私に何をやらせる積もりなんです?こんな絵をあちこちにばらまいたりして。」

緒方の表情はいつもと変わらず、ひょうきんな目をより子に向け、言った。

「あ、説明してなかったか。このパンフはここに居る殿がたに、出来るだけ気にいったものを選んでいただこう

ということだが、いずれ、君はこれらの図に従って様々に彼等と愛のまんだら、

いや、具体的には性の秘図シリーズを具現してもらうことになる。」

より子は、返事に詰まった。愛のまんだら?性の秘図?なにやら怪しげな雰囲気だ。ひょっとすると、

セックスの体位を、私をモデルにして撮ろうとでもいうのか、緒方が自身の手で、まさか!?。

しかし、より子の意識は、混乱の中で勝手に核心を避けて無意味な言葉を作っていた。

「よく分からないわ。私だって、ああいった性交の体位が、四十八手とかいうものがあることは

知らないでもなかったけれど、結局、あのポーズを真似て、ここにいる彼等と仕草を合わせ、

貴方がそれをカメラに収めようということなの?。あんなポーズに美があるかどうか、知らないけれど、

貴方のことだから、やっぱり美しく撮ってしまうのかもしれないけれど……。」

「うん、そう、そうなんだ。分かってくれたね。じゃあ、決まった。君にしか出来ないと思って、

十分考えた末だったんだ。あ、そうだね、いずればれるから本当のことをいうけれど、

断られてね、米人のモデルに。ちょっと困っていたんだ、締め切りが迫っていて。本当に助かったんだよ。

もちろん君の心情をないがしろにしたわけじゃあない。このためにトータル三日間用意した。

その間に身とこころを新しい仕事に順応させてもらう。完璧な君の体と心をあらゆるセックスの機能に順応させるためにも

それだけの時間は必要だろうと思ったんだ。アナルセックスのために腸内をきれいにしてもらわにゃあならんし、

肛門の拡張も時間を掛ける。でも、とりあえずはパートナーたちに君のありのままを見せて気心を通じ合ってほしい。

うんシャワーなんか必要ない、小便の臭いも親近感を高めるだろうし。肛門の拡張も手伝ってもらう。

じゃあ、すぐ、全部脱いでよ。さっきからずっと待ち続けていたんだ、彼等。お互い、はだかを見せあって、

気心を合わせてもらおうか。」

あっけないほど簡単に、重い決定的な宣告を聞いた撃て、より子は何も考えられないでいた。

しばらくそのまま緒方以外の男たちを順々に眺めていた。どんな顔をしていたのか、自分でも分からない。

多分、呆けたような表情だったろう。そんなより子の動かない肩に緒方の大きな手が置かれた。

「いずれ、写真というものは正直なんだ。愛を、生を写す以上、そこには真実がなくちゃあ、うさんくさい

まがいものしか写せないことになってしまう。君はこの三人と、少なくもこの日間、夜昼なく、

本意気で愛しあって、本当にセックスすることになる。もちろん彼等も承知だ。サポーターなんかも外してもらうし、

節目では、その都度、きっちり挿入して,攻めてもらう。そうだな、乗ってくれば、

中出しだってあるかもしれない。うん、俺になど遠慮しないでいいんだ。楽しんでくれ。

病気に関しては、皆病院の証明ももらっているから、心配ない。」

 ようやく腑におちたというような、幾分晴れやかな表情を見せたより子は、この現前に開

地獄めく風景のイメージを、どうすればうまく自分なりに受け入れて行けるのかということに

思考をめぐらせはじめた。もちろん、彼女の将来にも、これが今日秋葉原で乗り切った危機などとは

くらべものにならない破滅的なものだろうことは十分想像がついていたのだけれど、それをこともあろうに、

当の緒方の口から聞いたことで、いわば驚きを越えて、なにかを突き抜けてしまったような気分になってしまっている。

いうなら、芯を抜かれたといった方がいいのだろうか。

  ついさっきの、秋葉原でのひどい経験を胸に閉じ込めて、どうにかここにたどりついた。緒方にそれを綿めんと

打ち明けて、慰めて欲しかった。そんな気分など今はどこかに吹き飛んで、忘れてしまっている。

緒方が自分を見限ったのだ、という現実がこんなにはっきりとした現象であきらかになったことで、むしろ

爽やかな気分になってしまったのが、自分でもおかしかった。

もちろん、緒方を意識しないでいられるはずはなかったけれど、少なくも、私の美質のひとつも買ってくれた結果が、

今、私がここにいることなのだ、と考えたより子は、それでは最高の自分を見せねばならない、と思った。

に着ていたジャケットを取り、ニットのワンピースのジッパーを降ろす。ブラジャーをつける習慣のないより子は、

しかも先刻、店に預けていた紙袋からパンティを抜き盗られていたことがあって、するりと腰から足元へ衣服を脱ぎ落とすと、

その下はもう素裸なのだった。よくもこの姿で、乗り継いだ混みはじめた電車の車中で痴漢に遭わなかったものだと思う。

つん、と小便臭い自身の躯からの温気が意識に入ったけれど、それもより子には、これからはじめる冒険めく

様々な行為かりたてる、自虐的な快い味付けになった。

なんだか、やけっぱちになっているような、そんな気も、少ししている。脱ぎ落としたぺらぺらの衣服を

金色のハイヒールで引っ掛けて後ろへ遣り、そのまま後ろの緒方を振り返りもせず、最も身近かの男へ

ゆっくりと近寄っていった。何処までへりくだればいいのか、先刻の失礼を詫びようと改めての挨拶のつもりだった。

男たちも立ち上がり、裸の相役を迎え入れるような雰囲気だ。秋葉原の店を出るときにあわてて履き替えるのを忘れていた

商売用のハイヒールのままだったので、並んで立つ三人の大柄の男とより子の目線はほぼ同じ高さか、差はあっても

見上げるほどではなかった。なのでそれぞれの表情と感情がよく見て取れたし、近寄るにつれて期待に弾む息遣いまで感じ取れた。

まだアダルト映画の経験がなかったより子だったし、こんな状況で自分がどう振舞うのが自然なのかよくわからなかったので

緊張はあったし鼓動は高まっていたけれど、彼らが自分に何を求めているのかはよくわかっていた。

『先ほどは失礼な態度でしたね。打ち合わせが不十分で、ごめんなさい。」

並んだ三人を次々に微笑を含んだ目で見つめながらなんとか思いついた英語で言った。先刻とは逆にアフリカンの偉丈夫が

口火を切って言った。こういったのだった。

「これからは言葉は要らない。ボディトークでいこうぜ。なあ、ベィビー」

逞しい両腕を突き出して女の華奢な二の腕を掴み、あっというまに自分の胸へひきつけて唇を奪った。

なされるままにより子は仰のきヘヴィなキスを味わわされる。舌を口の中へ押し込まれる。そばのアラブ人も待ちきれずに

手腕を出して横から乳房をわしづかみにする。白人は背中に回ってやおら長い手を股間へ差し込んできた。

何が起ころうとともかく拒絶は避けて当面やりたいことすべてをやらせ、自分もそれにあわせて協力をすることだ、

とより子は思った。彼らが自分を多少とも痛めつけることがあったとしても、それは彼ら自身が高まるために

望んでいたことであり、愛撫以上の意味はない。可能な限り自分は笑ってそれに耐えねばならないだろう。

相手が逞しい男であり、しかも同時に三人となるととても逆らうことは出来ないし、だから反抗するのではなく何であれ

ただ愛撫として受け入れ、耐えること、それで相手が満足すれば結局それが自身の体への愛惜であり、快感として戻ってくるのだから。

アフリカンと密着した腹と胸がきゅ、きゅ、ときしった。いや、それは性徴と乳房を思う様にされている

より子の悲鳴に近い息なりだった。

 彼女自身、これほどスムーズに三人の男と意気が合うとは思わなかったし、既に息苦しく、

胸の動悸も普通ではない。

なぜか、緒方への意趣返しを含めて、自分をめちゃめちゃにして見せつけてやりたいといった気分を押さえられないのだ。

最高に楽しく、また無残な目に遭っている自分たち息をつめて眺めている男女が身近かに居るという

意識が更にその気分を高めている。唇を離した男に代わってそばで催促するアラブ人へ首をひねって

キスを求める大胆さも見せる。男たちはまさにこのためにここに居たわけだけれど、現前の女の魅力もさりながら、

その意外な大胆さと積極性、余りに早過ぎる迫りに、むしろ当惑しながらも笑って受け入れている。

緒方がそばの和代を振り返り、嬉しそうに笑った。

「やつら、たじたじじゃねえか。いや、より子もやることだよ。ちくしょうめ、嫉妬ける……。」

そういいながら緒方は、現前の光景から目を離すことができないでいる助手にライトを指示し、まずブローニーを受け取って、

ファインダーをにらみつつその四人のせめぎあいへ寄っていった。

ようやく前のジッパーを降ろした男たちの股間が勃起をはじめていた。

 

                                                      まんだら 

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